novel | ナノ






その冗談みたいにまっすぐな目で見つめられるのが、こわかった。
嘘も虚勢も、そこから逃げ出すことさえ許さないような強いその目は、俺が幾ら誤魔化そうとも到底うまくはいかないだろう。
中身を全て引き摺り出されて終わりな気がしていた。
お前のことが好きなんだ、と告げられたその日からその鎖は俺をキリキリと締め付ける。
強い力なのに、それはどこまでもやさしく、ああやっぱり鬼道は本気なんだということがわかる。
そう、鬼道は優しい。
想いを告げられる前から、鬼道はそうだった。
だから、だから、



「お前のことがこわいんだ」
「…そう、か」



鬼道は頭を傾けうなだれた。
そりゃあ好きな相手にそんなことを言われたらそうなるのは仕方がないだろう。



「不動がいやがることはしたくない」



不動が、これ以上嫌がるのならおれは、追い掛けるのをやめようと思うんだ。
鬼道の声は弱々しくて泣いているのかもしれないと思った。
ゴーグルで遮られていてほんとうのところはどうなのかは分からないが。
その姿に心がぎゅうと締め付けられたのは、自分の気のせいだということにしておく。
俺にはその手を取ることすら許されてはいないのだから。

鬼道のことは好きか嫌いと言われれば、好きだ。
鬼道は先ほど言ったとおり優しくまっすぐだ。それはこういった、色恋沙汰にも余すことなく発揮されている。
鬼道のそういうところがいいところで、自分が鬼道を好きな理由に他ならない。
しかし、その感情が恋慕なのかそうではないのか不動は未だにわかりかねていた。
自分がもうやめろと言えば鬼道はこれからどうするのか。
もう今までと同じように、話したりすることはできないのだろうか。
ちらちらと脳裏に、鬼道の笑った顔や、緊張したように他のやつらに話すよりも若干上ずった声だとか、そんな普段の光景が浮かんでは消えていった。
ゼロから始まることはいくらでもできるけれど、一度壊れてしまったものは、どうやって修復していったら良いのだろう。
でも、そうかきちんと元通りになるわけではないのか。

そんなのは、嫌だと思った。
鬼道が自分から離れていくのはいやだと思った。

俺は、鬼道の隣を歩いていたい。
遠くに行ってしまった鬼道を、離れた場所から眺めているだけなんて耐えられない。
そこで俺は、気付いてしまったのだ。
今なら、迷うことなくはっきり言える。俺は鬼道が好き、なんだ。
黙っている俺に勘違いした鬼道は手を強く握り締めた。
そのちいさな手のひらにはくっきり爪の跡が付いているだろうな。



「鬼道」
「―――っ!」
「俺はもう逃げないから」



俺もお前のことすきだ。
もう少し洒落た言い方もできただろうが、柄にもなく胸を高鳴らせていた俺は至ってシンプルな、告白をした。
その瞬間、鬼道がばっと顔を上げて、それは見事に気の抜けた顔をさらした。
それに俺が笑いかけると、鬼道の顔がくしゃりと歪んで唇が震えた。
できるだけやさしくゴーグルを外してやったらほら、やっぱり泣いてた。

鬼道は俺の名前を呼んで、腕で俺の身体を包み込んだ。
俺はそれに答えて腰に手を回して、鬼道の肩に頭を預けた。
同じぐらいの身長だと思っていたらいつのまにか鬼道の背のほうが高くなっていたことに、ちょっと驚いた。

心地よい体温に、これがしあわせなのかと似付かわしくないことを考えたり、した。






(あなたの全部がいとしいのです)





とりみさんの日記にとても素敵なネタが書いてありましたので。
きどふどがくっついた後の源佐久につづきます。