novel | ナノ

あと3分、
げろ甘南倉南








携帯のアラームによって7時に起床、その後半分寝たような状態で身支度を整える。
顔を洗って、髪を櫛で軽く整える。
そうしたら、水の冷たさのお陰で嫌でも目が覚めてくる。
そして、これからが実は密かに好きな時間。
こいつと、倉間典人と一緒に暮らすようになってからの、俺の毎朝の楽しみ。




「おーい倉間、起きろー」

「う……」

「こら、二度寝すんな、ねぼすけ」




倉間の寝相はすこぶる悪く、髪はぐちゃぐちゃだし、布団はまるで抱き枕のように倉間の両腕に丸められている。
南沢はそんな倉間の布団を勢いよく奪い取った。
南沢は、生意気で後輩らしくない倉間をいじめたり、翻弄してやるのが好きなのだった。
朝の弱い倉間を容赦なく叩き起こすのは、その一つ。このとき倉間は何も抵抗しないし、記憶も曖昧ならしいから、わりと好きにできるのだ。
しかし倉間はたいていのことでは起きない。
今現在も、唸って寝返りを打つだけでいっこうに目を開けようとはしない。
身体を揺さぶっても、嫌そうな顔をしたもののあまり意味が無い。




「くらまー」

「うー……」

「起きろー、8時だぞー、遅刻だーどうしよう」




棒読みのそれは意外と効果があった。
倉間は薄く目をひらいて、乱れた髪をさらにぐしゃりと掻き乱した。
眉を寄せ、まだ眠いんすよ、と言って毛布をかぶってもう一度寝ようとする。
そして寒いからか、パジャマの袖でなんとかして両手を隠そうとしていた。
確かに昨日はだいぶ遅くまで寝ることができなかった(俺のせいで)のだから、しょうがないといえばしょうがない。
しょうがない、が学校には行かなければいけない。
いい加減に起きなければ遅刻だ。
ノルマはあと5分というところだろうか。
別に出席日数とかが大変だとかそういうのはないけれど、自分はもちろんだが、できるだけ倉間にもちゃんとしてほしい。
倉間は眩しそうにぱちぱちとまばたきをして、開かれた目は南沢を追った。




「おはよ、倉間」

「…………」

「…………ん?」

「……南沢さんなんか嫌いだ」




そう言い放ち、倉間はなにか怒っているようで、南沢に背を向けてしまった。

は、はあああああ!?ちょっと待てどういうことなんだ!?
俺なんか悪いことした?!いつもみたいにお前のこと起こしただけじゃん!
どさくさにまぎれてやらしいことしたわけじゃないし!!
…別にいつもはやってるとかそんなんじゃない。たまにだたまに。
なんでだよ、いつもはかわいく、「篤志さん」って呼ん……で…。

ああ、そういうこと。
咄嗟にわかった俺を、褒め称えてもらいたい。自画自賛、さすが俺。




「あー…ごめん」

「許しません」

「ごめん、許して、典人」




名前を呼んでやったら、ぴくりと肩が上がって、首だけこちらを向いた。
下の名前を呼んでやらないだけで拗ねて、めんどくさいけどやっぱりかわいくて。
きちんと名前を呼んでやれば口では許さないといいながらも苦笑して名前を呼び返してくれるんだから。
自然と顔がゆるんでしまう。ついでに顔が赤くなる。
正直に思うのは正直、ちょっと悔しいが、倉間すっげえかわいい。
つられて倉間まで耳まで赤くして、南沢をにらみつける。
が、あんまり迫力はない。




「名前呼ばれて、嬉しい?」

「うっさい………」

「かわいー」




そう言って、照れて両腕で顔を隠してしまった倉間。俺は顔が見たかったから、できるだけやさしく腕を外しにかかった。
思ったよりも簡単に外れた腕の下から、真っ赤な倉間の顔があらわれた。
それがあまりにもかわいかったもんだから、キスしてい?と言えば、潤んだ目でそういうことは聞かないでするもんだろうと返された。
ちゅ、と繰り返し軽くキスをすると、さすがに俺は恥ずかしくなって、顔を離した。
その瞬間、目が合ってしまったものだから、急に心臓が跳ねた。




「典人ぉ」

「なんすか」

「腹へった。朝メシ作って、あの、この間のやつ」




あの黄色いやつ、と言っても倉間は疑問符を浮かべるだけだった。
そりゃあ黄色いってだけじゃ何なのかわかんないよな。
あとはなにで説明すればいいのか分からなかったから、甘くて、ふわふわしてて…と思い出そうと試みた。
まだ倉間は分からないらしい。
あうんの呼吸とは自分たちにはまだまだ遠いみたいだ。
でも今はまだ、そのぐらいでいいのだとも思う。




「あー、じゃ、パン焼いて」

「ん、そんぐらいなら俺できるわ」

「頼みます。じゃあ、適当にサラダとか作りますね」




それから言葉を切って見つめ合った。
それは、何分もなのか、それとも数秒なのかはよく分からないような、そんな感じだった。
そして2人同時に寒い、だなんて言って、また同じタイミングで吹き出して。
ぎゅうぎゅうと抱き合えばあたたかい、倉間の体温がそこにはあって。



「典人」

「んー?」

「なんか、しあわせ」




ああ、そんなふうに優しく笑って、今俺もそう思いましたなんて言わないでほしい。
お前のこと、これ以上好きになっちゃったら俺はどうしたらいいんだよ。
どうしようもない、俺。









(もうちょっと、あと3分だけこのままで)











南倉を幸せにし隊
南倉はやくけっこんしなさい
そして結婚式は私を呼んでほしい