novel | ナノ

表か裏か、それとも








2つに分けた長い髪を引っ張れば振り返って「何をするんだ!!」怒鳴られる。

わざとぶつかると「お前今の絶対わざとだろ!」と言って怒鳴られる。

その理由は絶対に言ってなんかやらないのだ。
そうでなければあの鈍感な先輩が、俺が毎日毎日飽きもしないで嫌がらせじみたことをする理由に気付くわけが無い。
そう、絶対に。
そうやって、狩屋は自分自身の気持ちを誤魔化していたのであった。











「お前さ、どういうつもりなんだよ?」




あからさまな嫌悪感を顕わにして、霧野は腕を組んで立っている。
目を細めて、眉間にシワを寄せて、狩屋を睨み付ける。
ああ、顔だけは綺麗なのに勿体ない、と狩屋はぼんやり思った。
場所はとてもいい感じに死角になっていて、見つけようとしなければ気付かれることもない。
もちろん、この人が大好きなあのひとにも。
自然と口角があがってしまうのを押さえられそうにない、今のこの瞬間は、俺のモノ。




「なにが、ですか?」

「なんで俺にだけ嫌がらせみたいなことをするんだ」

「……被害妄想ですか?センパイ」




鼻で笑ってやると、霧野は怒りをこらえて震える手を握りしめている。
それを見ているのが、楽しくて楽しくてしょうがない。
あの先輩が、俺のせいで感情を左右されているだなんて。

どんな感情でも楽しいと思った。
あの人しか見えてなかったあなたが、今確かに目の前にいる。
青くて綺麗でまっすぐな目が、怒りで濁って歪んで、きれい。
霧野は目を閉じて、息を長く吐いた。

なんだ、今日は落ち着くのがはやい。少し残念。




「…とにかく、」

「……霧野?」

「あ」

「し、神童?」




邪魔者のご登場だ。タイムリミット、もう時間切れ。
高揚していた気分が、ものすごいスピードでしぼんでゆく風船みたいになった。
神童は、ふわりと色素の薄い癖毛を遊ばせて困惑した表情をしている。
彼はすごくかわいげのある人だと思う。
脆くて儚げで、男ならば守ってやりたいと思わざるをえないような、そんな人。
きっと、すごく真っ直ぐで素直で、人に好かれやすいんだろう。

だから霧野先輩は、ずっと彼のそばで。
顔にそぐわず、男らしい気質のある先輩だから。
ああ苛々する。

狩屋は顔に笑顔を貼りつけた。




「あ、あの、神童先輩……その、気にしないでください。何もされてませんから」

「なっ!」




霧野の顔色が変わる。
神童はその言葉を聞いて顔を強ばらせた。
もやもやしたものが、そんな二人をみて少しスッキリした。
それだけ言って、狩屋は駆け足でそこをあとにする。
神童が霧野に詰め寄っているような、神童の平常よりすこしきつい声が狩屋の耳に届いた。
霧野が見ているほうがかわいそうになるぐらいあわてている姿が、簡単に想像できた。











(そのまま、こわれちゃえばいいのに)

あなたはどんなふうに歪んでいくのかなあ





















構ってちゃん狩屋と神童大好き(なように見える)霧野だけど実は蘭→←マサだったりします
すっげえヤンデレみたいになった気がする