novel | ナノ

がらくたの詰まった玩具箱だったね












あんたのその嘘くさい笑顔が大好きだった。
それを向けられて、大きな手で髪を撫でられればまるで自分が鬼道に愛されている錯覚に陥る。
できればこのまま、そうやって俺を騙していてほしい。現実と向き合うのはまだ怖いの、俺は。

朝俺が起きるまではでていかないでくれる優しさ。
そうしたら、朝目覚めるときに一番最初に見るのは鬼道だから。
そうして心地よい低音がおはようと鼓膜を揺らす。窓から入ってきた光がシーツの上に線を描く。それがとても綺麗に見えてまだ夢の中にいるみたいだ。
とろけるような甘いにおい、優しい手のひらはいたわるように髪を撫でる。
こんな俺を、そんな恋人にするような丁寧に扱って、期待させないでほしい。
鬼道はいつものように、家に来たときと同じようにきちんと服を着ていた。




「…おはよ」

「今日は早いな」




まだ寝そべっている俺のまぶたを、頬を、唇を鬼道の指がなぞった。
その手が温くてさっき起きたばかりなのに眠気を誘われてしまう。
眠ってしまわないように何度もまばたきをした。
ここで眠ってしまってはいけない、鬼道を見送らなきゃ。




「帰んの」

「ん、もうちょっと」




鬼道はそう答えて目を細めた。何度見ても見入ってしまう綺麗な赤い目だ。
昨夜のぎらぎらと熱の籠もった目も好きだが、穏やかな光を灯す今の目のほうが好きだ。
くしゃりと前髪を掻き回される。
その行為に、不意に泣きそうになってしまった。
心臓がぎゅうぎゅうと苦しくなって、辛い。

最初はこんなに溺れるだなんて思わなかったのに。一時の気の迷いにするつもりだったのだ。
なのに逢うたび触れるたびに胸を占める愛しさは増すばかりで、どんどんおちてゆく。
古びて錆だらけのアパートの階段を降りていくその背中を見送る度に、苦しくて息を忘れるくらい。
でも引き止めたらお前を困らせるだけだから、とぐっとこらえるのが当たり前になっていた。
辛いのは承知しているがもう会わないという選択肢はどうしても選べなかった。




「なあ、彼女心配すんじゃねえの」

「………そんなに俺に帰ってほしいのか?」




鬼道は少し傷ついたような顔をした。
違うと言いたいが(昨夜の行為のせいなんだろう)喉が痛いし、口が乾いていて声が出ない。
本当は他の奴のところになんて帰したくない。ずっとここにいてほしい。言いたいけど言えないことがたくさんあるんだ。
一番じゃなくてもいいなんて嘘。お前に大事にされる他の誰かが恨めしくてたまらないよ。
俺がこのワガママを言ったら、お前は俺だけを愛してくれるのかよ?


途端、ここは薄っぺらな空間に見えてきた。
やわらかな朝の光、乱れたシーツ、その中にいる俺の大好きな鬼道とみっともなくしがみついている俺。
何も生み出さない不毛な関係、何の意味も為さない関係。
ただお互いを傷つけ壊すだけ。
嘘、嘘だ。全部嘘だ。ほんとは愛してないくせに。


終わらせるのは、俺しかできない、だろう。







「鬼道」

「ん、なんだ?」

「もう、やめにしよう」







崩れる音がきこえた。





















浮気相手なあきお
イケメンな鬼道さんにほだされちゃっていいと思います。
鬼道さんバージョン書きたい
あきおの心境に気付いてるけど何も言ってやらない鬼道さんだとおもいます