novel | ナノ

しあわせになろう








不動はよく甘えてくれるようになった、と思う。
高校の頃まではは変に意地を張って、平気なふりをして陰では一人寂しそうにしていたのを覚えている。
一人になるのを怖がる、さみしがりなかわいいやつ。甘やかしてやりたいのにするりと手のひらをすり抜けていってしまうのがもどかしかった。
長く一緒にいたからだろうか、時々瞳が潤んで、泣き出すのではないかと不安になる。

目の前のぬくもりを腕の中に閉じ込めると不動は身じろぎした。
何度もまばたきを繰り返している。
その目に映った自分の姿が、ゆらゆらとゆれては光った。
長いまつげが震える。それが合図だったかのように不動は鬼道の首に手を回してしがみついた。




「どうした?」

「……鬼道くん」












ずいぶんと弱くなったものだ。
鬼道といるだけで安心して、時々無性に泣きたくなる。
この先に待っているかもしれない独りが不安で怖くて、鬼道の優しさに甘えてしまう。
自分では、結婚して幸せな家庭を築くなんていう幸せを叶えられないというのに。
もしもなんて言葉はいくつも浮かんでは消えるが、それでも、
鬼道の傍に、いさせてほしい。

今の状態が不安なのだ。
はっきりした証が、欲しいの。




「どうした?」

「……鬼道くん」




顔を上げると、鬼道とその後ろには満天の星空が広がっていた。
闇の中にも鬼道の赤い目はやはり綺麗だ。
頬を撫でられると、触れた場所からじんわりと鬼道の熱が伝わってきてたまらない気持ちになる。
そのとき、世界が止まった気がした。
そこにいるのは自分と鬼道のふたりと幾千の星たちだけ。




「……不動?」

「……っ一緒に、なって、」




急速に、そして残酷に世界が進み始めた。言ってしまったものはもう帰ってこない。
途端、不動に後悔の波が押し寄せてきた。

これでは本当に女みたいじゃないか。
鬼道は弱い自分に呆れただろうか、それとも嫌いになっただろうか。
こんな話、するべきじゃなかっただろうに。話すにしたって、もっと、ちゃんと。
鬼道の反応が怖くて、あわてて目をそらして取り繕った。




「ご、ごめ、なんでもな」

「不動」




鬼道の声は暖かくて、ただやさしい色をしていた。
誘われるままに顔を上げると、その声の通り、優しく笑う鬼道がいた。
心音がうるさくて、どうしていいかわからない。




「きどう、」

「俺はな、そういう、はっきりしたものなんて考えてなかったよ」




鬼道はゆっくり丁寧に、しかしはっきりと言葉を紡いだ。
証なんかなくったって、最初からお前と一生を過ごすつもりだったよ。
だって、俺はお前のことを愛してるし、お前だって一緒だろう?
感情ひとつだけで今までだってこうして繋がってきたんだから。
でも同時に、不動がそういうふうなことを言ってくれて嬉しいんだ。
ずっと一緒に居たいって、不動も思ってくれていたことが嬉しいんだ。

不動の弱いところも過去も、全部ひっくるめて受け入れたい。
不動がそれを見せてくれるようになった今ならなおさらだ。
だから、




「ずっと俺の隣に、いてくれませんか」

「……は、おま、え」




はらはらと不動の目から滴が次々流れてゆく。
鬼道がそれを拭い、不動は目を細めてそれを受け入れていた。
不動は泣いてばっかりだ、なんて鬼道が笑った。
つられて不動も笑う。




「ばかだな、鬼道くん。一生とかむりだろ…」

「そうか?」

「本当にばかだ。答えなんか聞かなくたって分かるくせに」




鬼道も不動も、目を合わせて笑い合った。


あるのは星空と、ふたり。
綺麗な花束もいい雰囲気のレストランでも、豪華な食事もなにもないけど、これでいい。
こんなに気持ちが満たされているのだから。
形なんて関係ない。




「これからも、よろしく、な」

「……おう」











そうして甘いキスをひとつ。
二人の左手の薬指は、やわらかく星たちのひとつのように光った。
















ちょこちょこ引用させていただいてます〜
ハジメさん、ネタ提供ありがとうございました(^O^)