novel | ナノ










夕日の差す教室で待ち合わせ。
示し合わせたわけでもないのに当然の様に倉間が3年生の教室へやってくる。
それからちょっとだけ言葉を交わしてから帰るのだが。
俺が話さない、だから倉間も黙っていた。
自分で言うのもなんだが優しくないと思う。
野郎相手に気を遣うのは面倒だし、それに倉間だからなのかなんとなく気分によるところが多かった。
今も気分じゃないから話さないだけ。
倉間は左右に目を動かして、何かを探すようだった。
存外ほっそりした指が膝の上でせわしなく動いている。
必死に何か紡ごうとするその姿に笑いが込み上げる。顔には出さない。

夕日が傾いて、沢山の机と二人の影が教室の床に長く伸びた。
特に何もすることがないので南沢は倉間を観察する。
さっきまでどこかしこも動いていた倉間は、指一つ動かさないようになって俯いていた。



「つまらないな」

「……え」

「つまらないよ、お前」



倉間に冷たく言葉を投げ捨てる。
カバンを取って立ち上がると、ぼうっとしていた倉間がやかましい音を立てて立ち上がった。
そんな倉間に目を向ける。必然的に見下ろすようなかたちになった。
倉間は今にも泣きそうな顔をしついて、南沢は眩暈がした。
立ちくらみなのか、それとも。



「っ、南沢、さん」

「……何だよ?」



それっきり倉間は口をつぐんでなにも言わない。
唇が震えていて、ああ本当に泣き出してしまうかもしれない。
泣かせるのは初めてではないけれど後味が悪いから、いじめるのもほどほどにしないといけない。
とうとう息苦しさは最高潮に達したので、震えるそれに噛み付くように口付けた。



「はは、冗談。何て顔してんだよ」













あんたにつまらないと言われた瞬間、周囲の空気を奪われたような感覚がして苦しくなった。もう、奪われるのは嫌なのに。
咄嗟に立ち上がってはみたものの、返ってくるのは冷たい視線。
深呼吸をしようとしても駄目で、酸素が足りない、苦しい。
そのまま呆然としていたらキスなんてかわいいものではなく、文字通り噛み付かれた。
「冗談」という言葉にバカみたいに安心して、ようやく空気が戻ってきた。
ああ、気付いてしまった。気付きたくなかった。





(お前がいないと呼吸もうまくできやしない。ああなんて愛しい依存)















引き寄せては突き放す呼吸のような関係

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