novel | ナノ

捏造

嫌いじゃないかも、なんてね









そいつは音もなくとても静かに、その目から水を流していた。
ああ、見つけるんじゃなかったと心から後悔した。
こいつは大嫌いだけど、一応泣いている奴を放っておけるほど俺は薄情でも冷徹でもない。
泣いている相手の扱いかたなら慣れているほうだと思う。神童もよく泣くから。
慰めるのは得意だ。



「…大丈夫か、狩屋」

「うるさい、話しかけないでください」



第一声に、気を遣ってやったというのにかわいくない言葉。
あーあ、なんか損した気分だ。
でもこいつの言うとおりにしてやるのも癪だから、話を続けることにする。



「なんで泣いてんの」

「知りません」

「知らないって、お前なあ…」

「だってほんとうに分からないんですから」



膝を抱えて体の向きを真逆にして、完全に関わってほしくないようだった。
あからさまに避けようとしているのがムカつく。
こいつが一体どうしてこんなふうにここで泣いているのか気になってしかたがない。
関わるのは、別にこいつが気になるとかそういうのからじゃない。
断じてちがうがこのままではよくない、自分が。

角度を変えて覗き込めば、涙は止まることはなくただただ水分を排出している。
床に落ちたそれは、人間が目から出したにしては結構大きな水溜まりを作っていた。
ふと、このまま出し続けていたらからからに干からびてしまうのではないかと心配になった。
と同時に、何で心配してるのか分からなくなった。
でもこいつがからからに干からびたら嫌だなあなんて思っていた、不思議なことに。



「なあ、」

「うるさいって言ってるじゃないですか、馬鹿にするなら消えて」
「違う違う、そうじゃない」



両頬に手をそえて無理やりこっちをむかせた。
勢いがついて涙が飛んで、きらっと光ってから床の水溜まりになった。



「あ、きれい」

「は、なに………っ?」



だって本当にそう思ったんだ。
睫毛も目も、どこまでも澄んでいたから。
目じりを吸ったら小さく音がして、口のなかに塩っぱい味が広がった。
塩味をなぞってほっぺたまで、思っていたよりもすべすべしていて、舌触りが良い。
夢中になって犬みたいに舐めていたら、胸を強く叩かれた。



「何、してんですか」

「ああ、すまん」



よく見たら、狩屋の目元が赤くなっていた。
それが泣いて擦っただけな赤さではないような気がして。
そしたらなんだか楽しくなって、かわいくないつり目も、きゅっと引き結ばれた口もかわいく見えてきた。
自然と口角が上がってしまう。
後でなんか飲み物でも持ってきてやろうかな。



「霧野先輩」

「なんだ?」

「大ッ嫌いです」

「あはは!俺もだ」



放課後の学校にその笑い声は高らかに。













狩屋が嫌いだけど甘やかしたい霧野と、霧野のことはすごく嫌いだけどなぜか無視できない狩屋
こんな感じになったら…いいなあ!
GOのまさかの伏兵に戸惑ってますマサキくんかわいくて