novel | ナノ









いつもはむすっとして、たまに人をバカにしたような表情で人のことをバカにする不動が、この時はかわいくみえるのだから、不思議でしょうがない。

滅多に見られない、俺しか知らないであろう、一面。
そのことに実は優越感を感じてしまったりするのだ。




「んっ、おいし」

「…そうか?」

「うん、甘くってまじ美味しい」



そう言って不動は一口一口大事そうにフォークで掬って、口まで運んで。
その、触れればふにふにやわらかい唇でフォークを咥えて、それから幸せそうに顔をほころばせる。
一連の動作、それからいつもよりへにゃへにゃと気の抜けたような笑顔がかわいい。
不動の笑顔なんて憎たらしいだけだと思っていたから最初はびっくりしたものだ。




「うまいか」

「うん、これ好き」




わざわざ普段行かないケーキ屋で買ってきた甲斐があったというものだ、と思った。
不動の嬉しそうな顔を見ているとつい餌付けしたくなってくる。
甘やかしすぎだとは思うが、結局可愛い可愛い恋人を少しでも喜ばせたいのであった。




「そっちはなあに」

「確か……バナナクレープ、とか」

「わあ!さっすが鬼道くん」




不動の好物はとっくに把握済みだった。基本的にバナナには弱いらしい。
ちなみに好きな飲み物はミルクティー。勿論バナナオレも好きだ。



「ほんと鬼道くんてばもったいない、この美味しさがわかんないんだから」

「しょうがないだろう、甘いものは苦手なんだから」




一口、クレープをほおばって、不動はたまらないと言うかのようにくうう、と眉をよせて声をもらした。
やっぱり理解できない。
甘いものは苦手だ。
生クリームなんて………あ、




「なあ、ひとくち食べてみろよ」




不動は完全にからかう体制だった。
鬼道が断るのを知っていて、無理やりケーキを勧めてくるのだろう。

ああ、なんて可愛いのだろう!




「…そうだな」

「へっ、」

「言われてみれば、美味そうだ」




我ながら、ベタなことをするものだと思いながら、不動の口元を舌でなぞって、クリームを舐めとった。
砂糖の甘さはいつもよりは嫌じゃない、かもしれない。
ちょっとした悪戯のつもりだったのだが、不動に効果は大いにあったようで、真っ赤になった顔で睨み付けてきた。
可愛い、そう思った直後、不動の蹴るというまことにかわいくない行動に鬼道はうなった。




「ぐっ………」

「なに、勝手に、盛ってんだ、ばか!!」




もちろん皿は大事そうに持って決して落とすまいという意志が伝わってきた。
おい、俺とケーキどっちが大事なんだ、と喉元まで出かかったが、言うのはやめることにする。
どうせ即答されるに決まってる。



「ったくもー…つうかさ、今のじゃわかんねえよ、味。ほらひとくち」

「えー…」

「んな顔すんな。食ってみろって」




鬼道は考える。どうしたらこの状態から逃れられるだろう。
と、そこで鬼道は思いついて、嬉々として不動に言った。




「不動が食べさせてくれたら美味しいかもしれない」




しまった、思い付きで言ってしまったがこれでは引かれるかもしれない、と咄嗟に思う。
しかしこれはただの杞憂に終わるのだが。




「チッ、しょうがねえな」





ほらよ、と顔を赤らめながらフォークを差し出す君のかわいさといったら。
(もう食べてしまいたいくらい)


















もしものシュガーのお味

title by空想アリア