novel | ナノ

光をおしえてくれたのは、


※鬼不のような誰か×あきおのような








ゆっくりと沈んでゆく。
ここは薄暗くてしんと静まっている。
音の無い世界。
冷たい水の感覚。

強さにいらないものは全部全部棄ててきた。
水のもっと底のほうに。
温もりは、いらない。
生温い感覚に依存するなんて反吐が出る。
感情は押し込めて殺してやはり棄てた。
ただ這い上がっていくために。
痛みも哀しみも必要ない。
それでいいと思った。
キラキラと美しいものは自分には到底相応しくない。

そうやって外界から、あえて自らの存在を切り離す。
進んで独りになるのは辛くなくむしろ心地よかった。
そのはず、だったのに。




『ああ、まぶしい』




明るいところを光ながら泳ぐ「あいつ」はひどく自由で綺麗だった。
それだけでなく、自分は強く心を惹かれてしまっていた。

認めたく、ない。
自分は望んでいない、輝くことは。
薄汚れてしまった。もう誰にも見せられない。
歪みきってしまった、自分。
もう光のもとへは行きたくても行ってはいけないから。


そいつは言う。
「どうしてそう意地を張るんだ」「ほんとうは、怖いんだろう?」
心底うるさいと思った。
怖い?何に対して自分は恐れているというのだろうか。
何も知らないくせに分かったような口を叩くあいつが気に食わなかった。
それを口に出せば、このうるさい説教じみた声もなくなるだろうと思っていた。

その瞬間襲ってくる虚無感。
今度こそ本当にひとりだ。
これでいい。これでいいんだ。
そう自分に言い聞かせてやり過ごしていた。



だがあいつはその予想を見事に裏切った。
「じゃあ、お前を教えろ」と一言。
命令口調に腹が立ってその手を思わずはねのけた。
心にもない罵倒を浴びせると、あいつは黙ってゆらゆら泳いで行った。
その後ろ姿を無意識に目で追った。



それはある日のことだった。
目を開けるとあたりは真っ暗闇で何も見えない。
上からこの深海を照らしていたあいつの姿は、なかった。
そしたら突然怖くなって。
心が悲鳴を上げる。



『いやだ!このままずっと独りはいやだ……っ』



俺に光を見せてくれたあいつがいない。
その現実が怖くて悲しくて寂しくて、水の重さに押しつぶされそうだ。
必死で藻掻いた。
足をばたつかせてなんとか浮上しようと試みた。
先の見えない闇に手を伸ばす。
どこにも行かないで、独りにしないで。



「お願いだから、ここを照らしてよ」



ふっ、とあいつの笑う声が聞こえた気がした。
気付いたら手が暖かいものに包まれていた。
とたんに、辺りが明るくなって、そこにはあいつがいて。



「やっと見せてくれたな」



あいつはいつものしたり顔で、笑った。
やっぱりまぶしかった。
でも今度はしっかりと向き合えるかもしれないと思った。



「なんだ、なかなかに綺麗じゃないか」



込み上げてくるものは押さえられそうにない。
柔らかく笑ってそんなことを言うものだから。
最後の、意地っ張り。



「おせーよ…心配させてんじゃねえよ、ばぁか」

「すまない」



一緒に、行こう。そう言うあいつの腕の中におもいっきりダイブしてやった。







(ほらね、君も光ってきれい)













深/海/少/女みたいな話が書きたくて…。
しかしなんか訳の分からない話になりましたすいません