novel | ナノ

I know.







天気のいい昼下がり。
宿舎の玄関で不動を見つけた。
色素の薄い猫っ毛が太陽の光にさらされてさらに茶色く見えた。
そんな不動の前にはとある人物が立っていた。
長身で、ちょうど今日の空のように青くて、さらさらした長い髪の、
確かイギリスチームのキャプテンのエドガー、だったか。








「え、俺に?冬花じゃなくて?」

「ええ、貴方にですよ。フドウ」







不動は不思議そうに目をぱちぱちさせながら花とエドガーの顔を交互に見た。
エドガーは不動を見つめ、ふっと微笑んだ。
それはそれは優しく。
鬼道はその瞬間、はっとした。
エドガーの表情に見覚えがあったからだ。
だって、あれは、不動が愛しくてたまらない表情なのだ。
そう、あいつらとか、自分のように。
それに一旦気付いてしまえば、胸に渦巻く黒い気持ちを押さえられない。








「そっかー、なんか変なの」

「気を悪くさせてしまったか?」
「や、そんなんじゃなくてさ。まあ、ありがと」

「………っ」








不動の笑顔が輝いて見えたのは太陽のせいだけじゃないんだろう。
現にエドガーも顔を赤らめた。

不動は天然すぎる。
いつもは仏頂面で近寄りがたい雰囲気を醸し出しているのに、時々ああやって柔らかく笑ったりして。


ああ、また眉間にシワが寄っている気がする。
不動にまた注意されてしまう。








「どーした鬼道くん、難しい顔して」

「は!ああ………気にするな」

「そっか」








いつの間にか近くに来ていた不動に驚く。
長い睫毛がまばたきに伴ってゆれた。
不動がさっきもらっていた花は、名前はわからないが優しい黄色の、小さくてかわいらしい花だ。
不動によく似合っている。

ふん、センスだけは認めてやろう。






「冬花に言って、花瓶だしてもらいにいこ?」







こてん、と首を傾けて語尾が上がる。
それにくらりとしたところで気付く。

差し出された、不動の手。
これは、ひょっとするともしかして








「へ?」

「………ん」







不動はまごまごしている俺に痺れを切らしたのか、無言で俺の手をとった。
不動の手は白くてほっそりしている。
いわゆる白魚のような、というやつだ。

その手は暖かかった。
ちらりと盗み見ると、不動の顔は仄かに赤くなっていた。
思わず微笑んでしまう。








「なんで、ニヤニヤしてんだよ」

「いや、かわいいなと思ってだな…。

あと、こうやって甘えてくれるのが嬉しいんだ」








不動はぼっ、と今度は効果音がつきそうなぐらい真っ赤になった。
口をあけたりしめたりを繰り返し、目が泳ぐ。
いつもの余裕そうな顔はどこへいったのか、慌てまくっていた。
また、頬が緩んでしまう。








「わ、笑ってんじゃねーよっ!俺だってたまには甘えたっていいだろバーカ!!」

「たまにと言わずいつでもいいぞ」






とどめと言わんばかりにばか!と不動は声を上げる。
そう言いながら、ぎゅっと手を握りなおす。

俺だけが知る、不動のかわいいところ。
さっきまでもやがかかったようになっていた気持ちが嘘のようだ。
不動の言葉や行動ひとつで一喜一憂する単純な自分に呆れた。
と、同時にやっぱり嬉しく思う自分がいた。



ふわり、黄色い花びらが午後の日ざしの中に舞った。
















あきおは鬼道さん以外にもデレるけど対鬼道さんだと種類が違うよってはなし