novel | ナノ

※付き合ってないもどかしい鬼不が付き合う過程









昼寝とペンギンと片恋









ゆらゆらと心地よい光に目が覚めた。
どうやら昼食のあとに自室に戻ったら寝てしまったようだ。
なんだかあったかくてきもちいい。
鬼道は腕の中にあるものを抱き寄せた。
これは何だろう?






「…っ!不動……」

「くぅ………」






不動が穏やかな寝息を立てていた。時折声が聞こえる。
アップで見る不動の顔にどぎまぎする。
長い睫毛だとか、白くて綺麗な肌をついじっくりと観察してしまった。
そのまま見つめていると(見とれているともいう)不動は抱えていたペンギンのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて、頬擦りした。
ふっ、と笑みをこぼす。






「んんー………ふふっ」

「――――っ」






口を半開きにして笑う姿は、あまりにも愛らしくて無防備だ。
今度はそのぬいぐるみに頬擦りした。
心底ぬいぐるみがうらやましいと思った。
今なら、触っても大丈夫だろうか。

恐る恐る手を伸ばす。
以前から、柔らかそうで一度触ってみたいなあなんて思っていた頬に。
ゆっくりとちょっと丸みのある輪郭をなぞる。
自分の妄想の中では何度も触れていた頬は、やっぱりふわふわすべすべしていてたまらない。
しばらく夢中になって撫でていると、どれくらい経っただろうか、不動がピクッと反応した。






「ん……う?」

「わ……!」







驚いて手を離してしまった。
不動が寝返りを打ったので、さらに身体が密着する。
不動の顔はこっちに向いていた。
今度は頬ではなく、薄く色づいた唇を触ってみる。
不動はくすぐったそうにした。








「んーっ………あ…?きどぉ、くん…?」






不動がうっすら目を開く。
心臓がこれ以上ないぐらいに跳ねた。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう!!!
頭はどう言い訳をしようかでいっぱいだ。
完全に混乱していた。
不動はしっかりと目を開いて、鬼道を見た。







「なあ、鬼道くん」

「な、何だ」







不動はにこっ、という擬音が似合いそうな笑顔を見せた。
「可愛いだろ、ペンギン。佐久間がくれた」そう言ってこてん、と頭を傾けた。







「――――っ不動!」

「………?」







考えるより前に行動に移していた。
顔を近付けて小さな唇に口付けようとすると――――――







「や、」

「ふむっ!?」







目の前にはどアップのペンギンの顔。
鬼道の唇は愛くるしいペンギンによって阻まれてしまった。
顔をしかめてしぶしぶ離れた。
よく見ると、ペンギンのぬいぐるみに隠れて半分しか見えないが不動は耳まで真っ赤になって、目が合ったらすぐに逸らされてしまった。







「不動、」

「あのさ、順番がさぁ、逆じゃね、鬼道くん」







ぼそぼそと不動が言う。
ちら、と不動が鬼道を見る。
なんだか草陰から顔をのぞかせている小動物みたいで、かわいい。
期待と戸惑いと、あとちょっと不安げな色。


これはちょっとだけ、期待してもいいのだろうか。







「不動、」

「うん」

「あの、おおお、俺は」

「………おちつけよ」

「…すまない」

「あやまんなくていいから、」






早く、と言ってさっき落ち着けと言ったのに今度は急かして、わけがわからないとうっすら思う。
混乱していて変なことに気が回ってしまう。
たとえば不動はすごくいい香りがするとか、自分は妙に汗をかいているな、とか。







「俺は不動が、好きなんだ。」

「うん」

「俺とつきあって、くれないか」







その言葉を聞いた不動は、ペンギンの位置をずらしてはにかんだ。そうしてポツリとひとこと。
嬉しい、と。
それはそれは幸せそうに。







「俺も鬼道くんのことスキ。大好き」







ぶわぁっと、漫画みたいに目の前で花びらが舞っている気がした。
これは夢なのかもしれない、と思ったが、やっぱり目の前の不動の体温や香りは現実で。
なんて言葉にしていいか分からない、が、嬉しい。







「……っ、なあ」

「なんだ?」

「……ちゅー、しないの、かよ」






思いっきり睨まれた。
顔は真っ赤だし目は潤んでいて迫力はなかったが。
自分で言って照れている不動を見ていたら、こっちまでなんだかこそばゆい。







「え、えーっと……」

「……もーいい、鬼道くんなんか知らねっ」







恥ずかしさが最高潮に達したようで、不動は寝返りを打った。
見えるのはジャージの背中と、地肌が露になった後頭部。
鬼道は今までにないくらいに慌てふためいた。






「ふ、不動」

「…………」

「……その、すまない、こういうのは初めてだからよくわからないが」

「…………うん」

「今日は、これで勘弁してくれ……」







鬼道は上半身だけ起こして、不動の柔らかい頬に口付けた。
ちゅっ、という音がやけに大きく聞こえてやたらと恥ずかしくなった。
すぐに唇を離してしまった。ああ、勿体なかったと少し後悔する。
急に不動が顔を鬼道に向けた。
大きな目をさらに見開いている。





「鬼道ちゃんの、ばか」

「へ?ふ、不動!?」







ぐいっと胸ぐらを掴まれて、気付いたときにはお互いの唇が重なっていた。
そのことに気付くと鬼道は衝撃を受けた。
さっき手で触れたときも思ったが、ふにふに柔らかくて暖かくて。
唇で触れたらなんだかきもちよくて。






「不動っ!」

「わっ……鬼道くん苦しいってー」







くすくすと笑いながらも不動は鬼道の背中に手を回した。
今だに実感はわいていないが、今までより心が繋がったみたいで、幸せな気分になった。







「ねえ、もっかいちゅーしよう?」





そんな甘い空間にくらくらした。
















ハジメ様、キリリクありがとうございました!(^O^)
今回は(いつも以上に)糖度高めのゲロ甘仕様となっています…←
気に入ってくださったら嬉しいです!