novel | ナノ









ねえねえ緑川。


幼い子供みたいに目をきらきらさせて、お話しの時間の始まり始まり。








「緑川っ」


「うん?」


「俺が、もし、宇宙人だったらさ」








以前宇宙人のフリをしていた俺たちが、もしもの話をするなんて。
なんて滑稽なんだろう。

ちょっと笑える。笑わないけど。








「へえ、どこから来たの」


「………火星、とか」









数秒間考えてから答えるヒロト。
俺がたまにちょっとふざけて、ヒロトに何か言っても

ヒロトはひとつひとつ、やけに真面目に、一生懸命考えて答えを紡ぐ。

なんだか、とるに足らないぐらいの光を放つ星屑を、ひとつひとつ丁寧に拾ってあげている、みたいで愛おしく思った。









「それでね、もしも、」


「ん?」


「俺があした、帰るって言ったらどうする」









こてん、とヒロトは頭を傾けた。

俺は、今度は真面目な答えを導き出そうと頭をひねった。


ヒロトがもし、宇宙人で、

明日、ここにいないとしたら


そう考えたら、なんだか今すぐにでもいなくなってしまいそうで、怖くなった。









「……帰してあげない」


「へっ?」


「火星になんか、帰してあげない。ずっとここにいてよ」









ヒロトは緑色の目をまるくした。

いつのまにか周りはオレンジに染まっていて、その光を反射していた。

ほんとうに、曇りのないきれいな目だと思った。









「なんで?なんで緑川はそんなこというの?」


「なんで、って…」


「だって、ここにはおれの、おかあさんもおとうさんもいないんだよ?
おれ、ひとりぼっちなんだよ?
やだよ、そんなの」









段々と涙声になっていくヒロト。

声だけで、実際にそこが潤むことはないのだが。

緑川は小刻みに震えている手に気付いて、それを握った。









「ヒロト」


「なに……っ」


「ヒロトはひとりぼっちなんかじゃないよ」








ヒロトは何度も瞬きをした。

でも、やっぱりヒロトは泣かなかった。









「俺が、ひとりぼっちにしないから」


「み…どりかわ……?」


「だから、ヒロトも俺を独りにしないで」








額に口付けると、じわりと自分の熱が奪われているのが分かった。

なんだ、こんなに冷えてたのか。

ごめんね、と心の中でこっそりヒロトに謝った。









「ほんとに?」


「うん。」


「どうしても、って言っても?」

「うん。絶対連れ戻しに行くから」








そうして俺は立ち上がって、ヒロトに手を伸ばした。

ほら、もう帰ろう。

ヒロトはこくりと頷いた。



そんな、とある日の夕方の小さな公園での、君のおはなし。


















突拍子もないきみの話が好きだった
title by hmr