novel | ナノ









頭脳明晰眉目秀麗、さらには財閥の御曹司と三拍子そろった、我らが生徒会長、鬼道有人。

彼は佐久間の思い人だ。

幼いころから親しく、そのときから佐久間は鬼道に惹かれていた。
学年が上がるにつれ、雲の上の人になりつつある鬼道に追い付きたいが為に、必死に勉強をした。

もちろん、部活のほうも疎かにはしない。完璧なマネージャーをつとめている。

佐久間が生徒会書記に身を置いているのもその理由だ。

なのに、それなのに。









「よぉ、鬼道」


「ふっ、不動!!」


「あ?んだよ、大声出して」


「スカートが短すぎるだろう!!はしたない!」


「そんなにオレの脚みてたのかよ?鬼道くんやらしー」


「な……っ!どうしてお前はそうやって…!!」








二年生から編入してきた不動が、私の理想を引っ掻きまわす。

女子にあるまじきがさつな言葉遣い、行動。一人称が「オレ」しかも性格が悪い。

明らかに佐久間が嫌いなタイプの女だ。

そいつは生真面目な鬼道をからかうのがお気に入りらしく、よくちょっかいを出す。

それだけなら、まだいい。

まだいいのだが………。

鬼道は、どうやら不動に気があるらしいのだ。

今日も、ずっと不動を見ている。







「………不動」


「あ?なんだよ」


「そんなにスカートを捲るのはやめろ」


「なんでー?あちぃもん」


「そういう問題じゃない…」


「あの……不動……」


「んん?何、佐久間」


「図書室ならクーラーが効いていて、涼しいよ?」


「あ、そっか、サンキュー佐久間」







ひらひらと短いスカートを翻して、不動は生徒会室を出ていった。

鬼道は若干残念そうな顔をしていた。

それには気付かない振りをして、佐久間は話し掛けた。








「嵐みたいなやつですよね、不動って」


「ああ、その通りだな」








鬼道はふっ、と声を漏らして苦笑した。

悩ましげに寄せられた眉。

ああ、いつ見ても彼は美しい。

そう思っていたら、鬼道は佐久間をぱっと見た。

突然だったので、佐久間はたじろぐ。







「佐久間といるとな、」


「え………?」


「すごく落ち着くな」








優しく細められた目に見つめられ、ふわふわとした気持ちになってしまった。

鬼道に、一緒にいて、過ごしやすいと思ってもらっているのだろうか。

嬉しい。







「佐久間と比べて、あいつは…」

「何だか落ち着かない気分にさせられるんだ。」


「気に掛けなければ何ともないのに」




「どうしても、放っておけないんだ」










佐久間はガックリと肩を落とした。

何で、また……。

ああ、それでも、振り回されて大変だと言いながらも幸せそうに話す鬼道を見ていたら、

幸せを、願うしかないじゃない。







「鬼道は、」


「ん?」


「不動のことが大好きなんですね」


「は!?な、な……」









赤くなって慌てる鬼道は普段大人びて見える分、年相応でかわいらしい。

あーあ、あんなやつに渡すだなんて、癪なんだけど。




とりあえず、図書室で惰眠を貪っているであろう不動をおもいっきり叩き起こしてやりに行こう。











(あなたが幸せだったら主役の座だって喜んで明け渡しましょう)









ヒロインはいつも私じゃない
title by 空想アリア