novel | ナノ










□結婚しようか□









ライオコット島の空はキレイだ。
夜になると浜辺は余計な明かりが見えなくなって星空がはっきり見えた。
握られた手は、あたたかい。
反対側の手は風に当たって冷たくなっていた。
俺はもとより体温が低めな、俺。子供体温な鬼道ちゃん。


ちらりと隣を覗き見ると、月明かりに照らされてこれまたキレイな顔立ちがはっきり見えた。
そいつはゴーグルの下に隠された赤い目を黙って空に向けていた。



ふ、と考える。
俺は、これからどうするんだ。
とりあえず高校に入って、卒業したら仕事見つけて、ああ、

きっとその未来には、こいつは隣に居ないだろう

家の仕事を継いで、綺麗な奥さんをもらって、幸せな家庭を築くんだろう。

そいつの幸せに俺は含まれてはいない、いてはいけない。


柄に無くネガティブな考えに嫌気が差した。
はぁ、と長く息を吐いた。





「どうした?」





なんだよ、気付いてたのかよ。
チッと舌打ちをすると、俺の顔を覗き込んでいた鬼道はものすごく困った顔をした。

鬼道のそういう表情をみるのが好きだ。だからつい、困らせるようなことを言ってしまう。






「いやー、鬼道くんは将来どうしてんのかなーって、さ」






なんとなく視線を合わせたくなくて、満天の星空を見上げてぼそぼそと呟いた。

すう、と鬼道ちゃんが息を吐いて、吸う音が聞こえた。
緊張しいな鬼道の、癖。
大事なことを言おうとしているみたいだ。

何気なく視線を戻して、耳を傾ける。





「不動、その、」





するっとゴーグルを外す鬼道。
本当に緊張しているのか、いやに真面目な顔で見つめられてつられて緊張した。
なんだよ鬼道くん、かっこいい顔しちゃってさ。





「結婚、しようか」




俺、絶対間抜けな顔してる。絶対。




「俺は不動に傍にいて欲しい。仕事とか、世間体とか、そういうことは関係ない」




もう、馬鹿じゃないの。




「一緒に、居たい。」




そんなの俺もだよばぁか。
だいすき。
お馬鹿で糞真面目で優しい鬼道くんが好きだよ。
あーあ、




「ふ、不動!?」





急に泣きはじめた俺に、鬼道は慌てだした。
小さな子供をあやすように俺の背中を撫でる。
優しい手だった。

嬉しい。俺、今すっげえ幸せ。苦しい。
女ってプロポーズされるときって、こんな感じなんだろうか。

ひくっ、と情けなく喉がなる。
涙だけじゃなくて、だんだん鼻水まで出てきた。みっともない。
小さい声で鬼道が名前を呼んだ。ちょっと困っているような声色で。





「不動、泣かないでくれ」


「っ…――――に」


「ん?」


「幸せに、しろ、よな」





ぱあっと鬼道の顔が嬉しそうに輝いた。












(お前といるだけで幸せだけど、ね)