novel | ナノ



□子猫の戯れ□





ねえきどうちゃんきどうちゃん、

不動の猫っ毛がゆれる。ふわり、ふわり。
部屋に、ふたりきり。
不動は俺の腰に急に抱きついてきた。そうして俺の顔をそのきれいな目でじっと見つめる。
自然と上目遣い。
今度はその目をきゅっと細めて、しあわせそうに話しはじめる。

きどうちゃん。
なんだ?
短い言葉の、やりとり。



「ふふ、なんでもねー」



不動はきらきらと笑う。きらきらと。
今日はすこぶる機嫌が良いらしかった。
ねーねきどうちゃん、甘ったるい声で不動は俺の名前を再び呼ぶ。
急に首筋に顔を埋めてくるから、びくりとしてしまう。
不動が擦り寄ってくると、髪の毛が擦れてくすぐったい。
不動の吐息が首や耳にかかる。


ゆうと


耳元でそう囁いた。
ずきり、痛い。
不動はぱっと離れてやけに嬉しそうな顔をしてみせた。上唇を舐める。
ああ、また俺は噛まれたのか。
首だけでは足りなかったようで、今度は鎖骨にがりりと歯を立てた。
赤く跡が付いたそこを不動はいたわるかのように舐める。


「こら、不動」


子猫はいうことを聞かない。
指を持ち上げて甘噛みする。
ちゅぷ、ぐちゅり。
鬼道の耳には、不動が自分の指を舐める水音が、やけに響いて聞こえた。


「なー、欲情してんの、俺だけ」

唾液で唇が艶めかしく光る。
ぐらりとした。
不動は誘うように上唇を舐める。舌の赤さに目を奪われた。


「そんなわけ、ないだろう」


誘われるままに口付けた。
遊んでもらっているのはお前か、それとも俺だったのか。



(うちの子猫は発情期のようです)