novel | ナノ





不器用な愛を精一杯





鬼道の恋人の不動明王は寡黙な人だ。
それだけではなく二人きりで部屋にいても態度は素っ気ない。
どうにか恋人らしい雰囲気にしたいと鬼道は奮闘しているが、一向になびく気配すらない。
ただ空回っている鬼道を怪訝そうな顔で見つめるだけだった。
そんな顔をさせて、呆れられたのかと心配したのは一度や二度どころではない。
自分だけが不動に対して心を乱されている気がして鬼道は不安を抱いていた。


不動をちらりと見れば、目を伏せて手元の本に目を落としていた。
不動はイナズマジャパンの中では他にも女性的な顔立ちをしている奴が多くて霞んでしまいがちだが、中性的で綺麗な顔立ちをしている。
肌は色白で毎日外で練習しているというねにあまり日に焼けている様子はない。
つい見とれてしまっていると、視線に気付いたのか、睨まれた。


「何?」


耳に突っ込んでいたイヤホンを肩耳だけ引き抜いて不動は言う。何もそこまで嫌そうな顔をしなくてもいいじゃないかと言いそうになったがぐっとこらえた。


「すまない、ちょっと見惚れていただけだ」

「ふーん……そう」


不動は鬼道の言葉には眉ひとつ動かさず、また手元の本に目を戻した。
イヤホンを付け直す。
鬼道はばれない程度の小さなため息をついた。
また駄目だった。ドキドキしているのは自分だけ。
すると、円堂が鬼道を呼ぶ声が聞こえた。
立ち上がってドアに向かって歩こうとしたら、ぐっ、とマントを引かれる感覚があった。
振り返って見ると不動が鬼道のマントの裾を握っていた。


「どこ行くの?」

「……円堂に呼ばれているみたいだからな。」


そう鬼道が伝えると不動はむっとした顔をした。
ちょっと拗ねたような表情だ。
いつもするような大人びた表情ではなく、年相応のあどけない表情にどきりとする。


「すぐ戻るから………」

「………嫌」


不動はそのままうつむいてまるで叱られた子供みたいだ、と鬼道は思った。
片手で握っていたマントを今度は両手でしっかりと掴んで引いた。

「鬼道くんは、」


俺といてもつまんない?


その言葉に鬼道は目を見開いた。ゴーグルに阻まれて不動には分からない。
不動はぽつりと言葉を溢す。


「俺、何話せばいいかわかんねえし、付き合うって言っても何すればいいかわかんねえし………

………やっぱり、俺じゃ駄目?」


ああ、余計な心配だったようだ。
不動はちゃんと、俺をこんなふうに思ってくれていた。

目の前の細い身体を、無性に抱きしめたくなった。


「不動」


手を伸ばして、フワフワの髪を撫でた。
不動がぱっと顔を上げた。
深緑の瞳は透き通っていてとても綺麗だった。


「……ありがとう」


抱きしめると不動の肩が一瞬びくりと跳ねた。
おずおずと腰に回される腕が愛おしい。


「不動、好きだ」

「………………おれ、も」


そう言って不動が擦り寄ってきた。
今不動が言った言葉が、鬼道は一瞬理解できなかった。
理解した途端、堪らなくなって腕に力を込める。


「鬼道くん、痛い」

「すまない。」

「…行かなくていいの?」

「………まあ、大丈夫だろう」


二人で肩を揺らして小言で笑いあった。
しばらくは離したくないな、と鬼道は心の中で呟いた。










hmr様よりタイトルお借りしました。
お題にそって書く練習の一環。