novel | ナノ






独り占め、したくなる




「きどーくん」

ニヤリと笑いながらからかってやればあいつは顔を真っ赤にしながら怒る。
その瞬間が、大好きで仕方ないのだ。
自然と顔がにやけてしまって、さらに鬼道は怒る。
それに向かって今度は「ムキになっちゃって、カワイイねー鬼道クン」と言ってやると、その顔は今度は別の意味で真っ赤になる。

これは、俺の特権だ、と思う。



しかし今日の俺は不機嫌だ。
理由はあいつのせい、だ。
何でか分からないがやけにあいつが他のやつと話してる顔がチラチラと視界に入る。
眉間に皺を寄せて考え込んだり、真剣な表示だったり。
たまに見せる笑顔、だったり。
くるくる変わる表情を見る度になんだかイライラしてしまう。

「……………チッ」

舌打ちをしてベンチに座り込んだ。
イラつきながら練習するのは疲れる。
ぼおっとしていると何を思ったのか、鬼道が隣に座ってきた。
なんなんだよ、と思ってちらりと覗き見ると、鬼道と目が合った。(ゴーグル越しだったから本当に目が合ったかどうかはわかんねェけど)

「…………何?」

「いや……ちょっと、な」

なんだよ、勿体ぶりやがって。
言いたいことがあんならさっさと言えよ。

「その、だな、あんまり見られていると集中しづらいのだが。」

「は、はぁ?
俺がお前なんか見てるわけねぇだろ!
自意識過剰すぎ」

図星を突かれて慌てて嫌味ったらしい言葉を返す。

「図星、か」

ニヤリと鬼道は笑ってみせる。
その顔に不覚にもときめいてしまったのは心の奥にしまっておくことにする。

「ふふ、かわいいな、お前は」

鬼道がそう言って眉をよせて笑う鬼道の表情がなんともいえずかわいらしかったので、おめーのほうがかわいいんだよバーカ、と心の中で呟いた。
ああ、さっきのモヤモヤしたものが、あっという間に晴れた気がした。
理由はなんとなく分かってた。
ただ他の人に向けられる表情に嫉妬しただけ。

つまらない独占欲だなんて思いながらも鬼道に笑顔を向けられただけでこんなにもスッキリしてしまった自分もしょうもないなと思いながら俺はへらりと笑った。








主宰企画に提出です!!
参加者様が思っていた以上にいっぱいいて嬉しいです!
素晴らしい作品に日々にやけております。
お題に添えているか怪しいですが投下!←