novel | ナノ









ずっとずっと




ああ、お前がいない部屋はこんなにも空っぽだ。
そんなことを鬼道は心の中で呟いた。
喧嘩の理由なんて今ははっきりとは覚えていない。
いつものごとく小さな、取るに足らないことがきっかけだった、それだけ。
それにしてもあんなに、言い合いをする必要なんてあっただろうか。
そうだ、いつもはあっさり折れる俺が珍しく意地を張ったんだ。
最後に言った言葉は何だったか、その記憶より鮮明に、あの時の不動の顔が焼き付いている。
一瞬、驚いたように目を見開き、その後今にも泣きそうなあの表情が。
あ、と思った時にはすでに遅く、不動は車の鍵を掴んで飛び出して行ってしまった。

そんなとりとめのないことを考えてから、ふと壁に掛けてある時計を見た。
時刻は零時。不動が出ていってから、一時間。
鬼道は立ち上がった。電話をしよう。謝って、帰ってきてもらうんだ。
そう思い、携帯に手をのばそうとした瞬間、電子音が鳴った。
携帯の液晶には不動の名前が表示された。
気持ちを落ちつけながら電話に出ると、相手は不動ではなく女性だった。

「もしもし、不動さんの御友人の方ですか?」

「え、ああ、はい、まあ」

とても丁寧な相手の対応に戸惑ってしまう。
その後に続けられた言葉に、鬼道は頭が真っ白になった。








急いで病院へ向かった。まださっき聞いたことが真実だと、頭の中で処理できていなかった。
病院に着き、病室の番号を受付で尋ねた。
三階だった。エレベーターを待っている時間も惜しくて、階段を駆け上がった。

305号室だったはず、だ

「あき、お………!」

頬にはガーゼ、頭に包帯を巻かれ、腕はギプスで固定されて、痛々しかった。
でも、無事なようだった。

「きどうくん………?」

不動はゆっくりと顔をこちらに向けた。

「不動、よかった…!重体だと聞いていたから…」

そう鬼道が言うと、不動はふ、と微笑して、「医者は言うことが大袈裟すぎんだよ」と言った。
よかった。安堵が込み上げてきてきて崩れるようにベッド脇の椅子に座り込んだ。

「体調は悪くないか、不動」

「ん、へーき。」

不動は淡々と答える。しかしなかなか目を合わせようとしない。
やはり、まだ怒っているのだろうか。

「不動、すまない……あんなこと言わなければ、お前は……」

「………いいって。起きちまったもんはしょうがねぇだろ」

相変わらず不動は目線を逸らしたままだった。
不安になって、不動の腕を掴もうとする。
すると、

「………っな!?」

びくり、と不動が反応して、その手が空を切った。
不動は目を見開く。
鬼道はまさか、と思って今度こそ不動の腕を掴んだ。

「まさか、見えてないのか……?」

不動はうつむき、唇を噛んだ。
沈黙で不動は鬼道の言葉を肯定する。

「…………もういいよ、鬼道……」

不動は掴んだ鬼道の手を振り払って言った。
そうして、不動は苦しそうに眉を寄せ、ぽつりぽつりと話す。

「俺さ、お前に迷惑なんかかけたくねぇよ。
だから、俺のことはもう、ほっといてくれよ…」

ぎゅ、と不動の手はシーツを握りしめた。その手は小刻みに震えていた。
鬼道はその手に自分の手を重ねた。

「…………これは、俺のワガママだ」

ぴくっと不動の手が反応した。

「俺はお前を手放す気はない。
不動がいない世界なんて意味が無い。」

不動はそんな鬼道の言葉を聞いて、へなへなと笑った。
目から零れ落ちた雫は真っ白な病院の寝間着にグレーのシミを作った。

「自己中にも程があるって…………馬鹿野郎」

「馬鹿で結構だ。お前がいるならそれで」

「はぁ………なんでこんなやつ、好きになっちまったんだろぉな…」

「俺に惚れたことを一生後悔させてやろう」

鬼道はそのセリフを言った途端、笑ってしまった。
それにつられて不動は苦しそうに、嬉しそうに笑った。

「愛してる…………明王」

鬼道がそう呟くと不動は、かろうじて聞こえる声で「おれも」と言って、鬼道の手をもう片方の手で握った。






これからもずっと、君とずっと世界を見ていこう。
(ほらこんなにも色づいて美しい)









2700打のキリリクで、弥凪様より、大喧嘩をして出て行った不動さんが大事故に遭って大怪我をし、精神もろとも弱っているところを必死に看病する鬼道さん、でした!
素敵なネタがまったく反映されてないっていう……(汗)
ネタを見た瞬間に浮かんできたことを色々と(半ば無理やり)詰め込んだらなんだか中途半端な文になってしまいました…。しかも無駄に長いです…。
書き直し要望等ありましたら、メールでも拍手でも遠慮なさらず言ってください!!

それでは、弥凪様に捧げます!
今後も当サイトをよろしくお願いしますm(__)m