ロンドンライフ小説 | ナノ






「葉っぱが食べられたら良いのに」

「え?」


どこからか降ってきた呟きに驚いてばっと顔を上げれば、木の上で葉っぱを弄っていたルナさんと目が合った。


「おはようルークくん」

「あ、おはようございます…ってルナさん、そんな所で何やってるんですか!?」


思わず普通に挨拶を返してしまったけど、この状況はおかしいだろうと判断してそう聞いた。


「今日は良い天気だなぁと思って」


そしたらこの返事だ。全く答えになってない。でもまぁ、一つ分かった事がある。


「寝ぼけてますか」

「んー…寝ぼけて、るね」


ふふふ、と笑ってそう答えたルナさんにはぁ、とため息をつく。朝一で会う彼女は大体寝ぼけている。そして、そんな彼女を覚醒させるのが僕の日課になってきている。


「フルーツタルトとガトーロンドンどっちがいいですか」

「両方で」

「じゃあフルーツタルトにします」


どっちが良いかと聞いたのに両方と即答したルナさんの意見は却下して勝手に話を進める。何を決めたのかというとルナさんに食べさせる朝スイーツだ。朝スイーツとは朝一番に食べるお菓子の事らしい。ルナさんが以前熱く語っていた。そして彼女はその朝スイーツを口にしないと、寝ぼけたままでいつまでも覚醒しないのだ。


「じゃあちょっと買ってきますけど、落ちないでくださいよ!」

「落ちないよ失礼だねワトソンくん」

「誰がワトソンくんですか!もう、大人しく待っててくださいね!」


行ってらっしゃーいと手を振る彼女に念をおして公園を出た。しかし万が一本当に落ちてしまったら困るので急いでフルーツタルトを購入し公園へ駆け戻る。先程と同じように木の下から見上げればルナさんは相変わらず木の上で葉っぱを弄っていた。


「ほら、買ってきましたよ!」


ずい、とタルトの入った箱を差し出すがルナさんは降りてこない。その代わりちょいちょいと手を動かしている。


(まさか…)


「プリーズポイっと」


僕の予感は見事的中した。彼女はタルトをポイッと投げてよこせと要求しているのだ。しかし流石にそれは行儀が悪いので降りてこないならあげませんと言ってベンチに腰掛けた。すると彼女もすたんと木から降りてきた。新体操的に言えば9.0点はいったであろう綺麗な回転に思わずわぁ、と歓声が漏れた。

しかし彼女はそんなことは気にせず僕の隣に腰掛けるとどこからかマイフォークを取り出した。準備は万端らしい。

彼女の膝の上に箱を乗せてどうぞと言い終わると同時に彼女はタルトにさく、とフォークを突き刺した。そして一口大に分割し口へと運ぶ。それが何度も繰り返され、数分もしない内に一枚あった筈のフルーツタルトは彼女のお腹に収まっていた。


「ごちそうさま!」


先程までのふわふわした様子から一変し、はっきりとした声で完食を告げた彼女は美味でありました!と空になった箱をたたみながら言った。どうやらやっと覚醒したらしい。


「おはようございますルナさん」

「おはよう!今日もすまないね!」


もう一度改めて挨拶すれば、いつもありがとうと言われた。


「ルナさんがちゃんと起きないと皆さんが困りますからね!英国紳士として当然です!」


いきなりの言葉にちょっとむず痒くなって照れを隠すようにそう言えば、ルナさんはふふ、と笑って立ち上がった。


「ありがとう小さな英国紳士くん」


彼女はぽん、と僕の頭に手を乗せそう言っった。そしてぐーっと体を伸ばしてよし!と一声気合いを入れくるりとこっちを向いた。


「じゃあルークくん。行ってくるね!」


ビシッと敬礼をして公園を走り去っていったルナさんはきっと今日も人助けに奔走するんだろう。だから今日もタイニーロンドンの1日は平和に終わる。


「よし!僕も先生の所に行かなきゃ!」


肩にかけたポシェットをぎゅ、と握り直し、僕も自分の仕事をするべく研究室に向かった。





とある朝の出来事

(そういえばなんで木の上に?)(気付いたら居たのだよワトソンくん)(もういっそベッドに縛りつけてから寝たらどうですか)(ひどい!)

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ルナちゃんには寝ぼけてると動くものについていく習性があります。刷り込みみたいな。多分今回は鳥かなんかにつけていったんじゃないですかね、多分。