ロンドンライフ小説 | ナノ






「ひゃっ」


ぐきっばたんべしゃっ


「あ…あ…あああああっ!!!」


小さな悲鳴と盛大な音をたてて音に劣らず盛大に転んだ少女―ルナ・ヴァイオレットは、見事に地面にべしゃりとぶちまけられたアイスを見るとこの日一番の悲鳴をあげた。


「私のっ…私のミントアイスが…!」


目の前の惨状に餌をねだる金魚のようにぱくぱくと口を開閉し、震える手を伸ばすルナの目には涙が滲んでいる。


「まだ、一口しか…一口しか食べてないのに…!」


地面をばしばしと叩きながらそう言った彼女は暫く俯き震えた後、上半身を起こし無残に飛び散った元ミントアイスを見下ろした。空の様に青いアイスがコンクリートの上でじわじわと溶けていく。


「こ…これならまだ…」

「ルナさん!」


どうしても諦めきれないらしいルナがアイスの上に塔のように立っていたコーンに手を伸ばそうとした時、悲鳴を聞きつけて走ってきたらしいルークがそれを制した。


「駄目ですよ!落ちた物を食べようとしちゃ!」

「だ…大丈夫!まだ一分も経ってな」

「駄 目 で す !」


自分ルール(落ちたものでも一分以内に拾えば食べられる)を持ち出そうとしたルナをルークは容赦なく切り捨てる。19歳のルナが5つ以上年下のルークに叱られる図は酷く滑稽だったが、タイニーロンドンの住人はあらあらと微笑むだけだ。割と珍しい光景ではないのかもしれない。


「ルークくん」

「駄目ですよ」

「上の方なら」

「駄目ですってば!」


「おや?ルークにルナ。こんな所で何をしているんだい?」


まるで駄々っ子としっかり者のお母さんのようなやりとりを続ける二人に声をかけたのは、シルクハットが特徴的な英国紳士だった。


「あっ!先生!」

「教授!」

「ん?これは…ミントアイス?」


勢い良く振り返った二人に微笑んだレイトンはルナとルークの間にできた青い水溜まりに視線を落とした。レイトンの登場に笑顔を取り戻していたルナはレイトンの視線を辿ると、思い出したように肩を落とした。そんなルナの様子にルークは溜め息をつき、レイトンはああ、と納得したように言った。


「落としてしまったんだね」


無言でこくり、と頷いたルナの肩に慰めるように手を置いたレイトンはハンカチを取り出し使いなさいとルナに差し出した。


「ふぇ…教授ぅぅぅ…!」

ハンカチをぎゅ、と握りしめレイトンに抱きついたルナの背中をあやすようにさすり微笑んだレイトン(まるで聖母のようだったと後に彼女は語った)は幾分か落ち着いたらしいルナを立ち上がらせ言った。


「もう大丈夫かい?」

「はい…大丈夫、です!」


ルナはごしごし、と目元を拭って教授のおかげで涙は吹き飛んじゃいましたから!と笑って見せた。


「ふふ、それは良かった。…さて。ルナ、ルーク。今日はレミ特製の苺タルトを貰ったからお茶会をしようと思うのだけれど…君達も来るかい?」



シルクハットの鍔をクイ、と上げながらふわりと微笑んだレイトンに、二人は笑顔で「はい!」と答えた。





素敵なお誘い

(あれ?ミントアイスはもういいんですか?)(教授の笑顔とレミさんのタルトがあれば!)(現金ですね)(失礼な!)(二人共、早く行くよ)((はーい!))

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ルナちゃんはルークによく怒られてます。主にスイーツ関係で。ルークは世話焼きっ子だよね。でもルナちゃんもやるときはやる子なのでたまにお姉さんらしい事だってします。多分。