彼らの話
シーン2
場面説明 夜 男の住む部屋
窓辺に座る男は白く分厚い本(台本)を捲りながら、その目が追う文節を小さく口ずさんでいる。窓からは月明かりが、そして夜に開け放つには季節的に早かろうやや冷たい夜風が、男とその本のページを揺らしている。
L「『風が便りを運ぶと言うなら、僕に宛てた風は吹いていない。君への手紙は届いているだろうか? 波は僕の便りを運んでくれているだろうか? 朝ばかりが僕に会いに来るけど、君に会うことはない』」
仮面の男D、明かりの中に入ってくる。
D「新しい台本か?」
L、意識を本から浮上させてDに気付く。
L「うん。ゲームシリーズとは別件だけどね」
D「ほう、映画か…」
と、本を覗き込む。
L「舞台っぽい台詞回しだけどね。まあ、モノローグだから」
D「私にこの湿っぽさはないな」
L「君の中で私は相当根暗な設定だね?」
D「知的、ということだよ」
L「ふーん?」
D「怒るな」
L「怒ってないさ」
D「拗ねるな」
L「拗ねてないよ」
間。L、本を閉じる。
L「泊まりがけらしいから、しばらくは帰れないから」
D「そうか。分かった」
L「…寂しい?」
D「ノーと言えば嘘になるな。でも君はここに帰ってくると分かっているし、…まあ、私も『待て』は出来るさ」
L「聞き分けがいい子だね」
D「さあ? 今にも噛み付くかも」
間。二人、笑いあう。
やがて、笑いが消えて、
L「それを期待していた、と言ったら君は愚かだと思うかい?」
D「エル」
L「……いや、今のナシ」
L、部屋の隅で小さく膝を抱える。
D「今すぐ食べるのはアリか?」
L「ナシ! 無かったことにして!」
D「エール」
Dが頑なになるLを解こうとすればする程、Lは小さくなっていく。
L「ああもう私の馬鹿」
D「嬉しいよ。愛されてるって感じる。幸せってこういう時に使うんだろうな」
L「……それが困るんだ」
D「なぜ?」
L「遠く離れた所で君のことを考える。今が楽しければ楽しいほど、幸せを感じるほど、胸が苦しいんだ。どうしたって止まらないし、だからって君のことを忘れておくなんてもっと出来ない。だからただ苦し」
D「それくらいにしてくれ」
L「ごめん」
間。
D、Lを抱き締めて、
D「そんなに告白されたら、飼い犬とていつまでも命令を聞いてられないさ」
L「ちょ、ジャン!」
D「私をそんなに喜ばせてどうする、エルシャール?」
L「でも…」
D「要するに好きで好きで堪らないという話を、私はあとどれ位『待て』をすればいいのかな?」
L「私はこの先に待ちかまえている苦しさに耐えられないんだよ」
D「なら、その苦しみを私が塗り潰そう。仕事の間の分まで今日。仕事が終わって私の元に戻ったなら、またぐしゃぐしゃに塗りたくってあげよう」
L「ジャン…」
間。
(D、アドリブでキスをする)
L「!」
D「さて、『待て』は出来るが『お預け』は聞きかねる。飼い主殿、そろそろご褒美が欲しい」
L「…ふふ、催促するなんて困ったワンコだな」
D「従順に待ったことを褒めて頂きたいね。君の唇に噛みつきたいのを堪えてるのだから」
L「跡形無く食べられると困るのだけど」
D「お任せを。帰ってきた時の分に取っておくから」
L「じゃあ、お手柔らかに…」
D「善処はする」
照明、月明かりを残してフェードアウト。
D「多分」
L「多分なんだ(笑)」
暗転。
fin.
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ソルト様から654打記念に頂きましたデスレイ!ソルト様宅の役者設定な二人が大好きすぎてリクエストさせて頂いたのですが、素敵すぎてもう…!台本調ってところがまたセンスを感じさせるぜ…じゅるり。そしてデスコール氏のアドリブには拍手を送るしかない^^本当私この二人の雰囲気が大好きで仕方がない様ですhshs!
素敵デスレイありがとうございました!
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