「あの、レミ」
「何ですか?教授」
「これは一体、どういう状況だい?」
研究室の扉を開けた私は、開口一番にそう言った。
研究室には私とレミ。そして何故かデスコールが我が物顔でソファに腰掛けている。
レミは腰に提げたカメラケースからお気に入りのカメラを取り出してにっこりと笑う。
「写真を撮ろうかと思いまして!」
ビシッとお得意のカメラマンポーズを決めてみせながら彼女はそう言った。
「…写真?」
「はい!」
研究室に居るのは三人。私と、レミと、デスコールだけ。そしてカメラを持っているのはレミ。そこから導き出される答えは一つ。
「誰の…」
「教授と、デスコールの」
導き出された答えに困惑し一応誰の写真を撮るんだいと尋ねようとしたところ、当然のように彼女はそう言いきった。
(いやまぁ、普通に考えればそうだろうけどでもだって彼は…)
頻繁に現れるとは言っても一応追われてる身の人間がそう簡単に写真という形に残るものに写っていいものなのだろうかと考えたが、よくよく考えれば彼の姿はとうに知れ渡っているし仮面を付けているのだから関係ないかと思い直す。
「しかし…何故だい?」
それでもやっぱり何故私と彼がいきなり二人で写真を撮る事になるのかが解らずそう聞けば、何がですか?と返された。
「いや、ほら…今日は別に特別な日でもないし彼が訪れるのは珍しい事でもないのだから、わざわざ写真を撮らなくても…」
「写真に日にちや状況は関係ありませんよ!ほら教授、こっちに座っててください!少し準備するので」
「えっ…あ、うん」
彼女にぐい、と手を引かれるままに進む。ぽすんと腰を下ろした場所はソファの右端、つまり左端に座る彼の隣だった。
(写真、か…)
ちらりと私と反対側に腰掛ける彼に目をやる。長い足と腕を組んでレミがカメラを弄っているのを見ている彼の様子はいつもと変わらない。多少、いつもより大人しくは感じるけれど。
(なんか、緊張する…)
昔から写真は少し苦手だったが、今日はそれの比じゃない気がする。変に緊張して、彼と目が合わせられない。
「おい」
「へ?」
「立て。準備が終わったらしい」
悶々と考えていた私の耳に入ってきた彼の声に顔を上げれば、レミがこちらに向けてカメラを構えているのが見えた。
「えっ…ここで撮るのかい?」
「はい!」
「でもほら、書類や本で大分散らかっているし…」
「大丈夫です!足下までは写しませんから!」
まだ緊張が解けてなかった私はどうにか撮影を先送りにしようとそう言ってみたが、問題はありませんと返されてしまった。じゃあ二人とも並んでくださいと言う彼女にそれ以上何を言えるわけもなく、彼の隣に立つ。彼と私の間には人一人分程度の距離が空いていた。
「教授!もっと寄ってください!」
「ええっと…これでいいかな」
レミの言葉に距離を縮める。これで彼と私の距離は半身分程度になった。うーんと首を捻っている彼女を見ていれば、横から声をかけられた。
「おいレイトン」
「なんだい?デスコール」
「この微妙な距離はなんだ」
「いや、その…うわっ!?」
不機嫌そうにそう聞いてきた彼に答えを濁せば、伸びてきた彼の腕によってすぐ隣に引き寄せられた。
「ちょっ…!」
「あ!その位置で決定!」
突然の行動に驚き抗議の声をあげようとしたが、それはレミの声によって止められた。彼女は左右前後に動くと、丁度良い場所を見つけたのかぴたりと止まりカメラを構えた。
「さぁ、笑って笑ってー」
にこにことしながらそう言われたがなかなか上手く笑えない。
「うーん…ぎこちないわね…」
ファインダーから目を離したレミは、暫く首を傾げながら唸り、ぱちりと目を開けて思い付いたように言った。
「じゃあ、二人に質問です!」
写真を撮られるのだと身構えていた私はその言葉に「え?」と聞き返してしまった。隣からも「は?」と聞こえたので恐らく彼も同じような顔をしているのだろう。
「写真はどうした」
「ちゃんと撮ります!ただ、その前に質問に答えてください」
「…ふん。それで?その質問とは何なんだ」
少しイラついた口調で聞いた彼にレミは今から言います!と一言返しカメラを下ろした。
「二人とも相手の事が好きですか?」
よく通る明るい声で発された質問に思わず固まってしまった。
(え?え?いや、まぁそれは…その、好きかと聞かれればその、好き、だけど。レミの前でそう答えるのはちょっと…いや、彼女は私達の関係を知っているし、今更気にするような事ではないかもしれない。いや、それでも…)
悶々と考えている私を知ってか知らずか、隣の彼はすぐに答えてみせた。
「勿論。愛している」
彼の答えにぎゅ、と帽子の鍔を掴み下に傾ける。表情はあくまで冷静に英国紳士のまま。心臓だけがばくばくと鳴っている。
(ああもう…!)
帽子でできるだけ顔を隠すようにしてずるずると座り込む。いつの間にかカメラを構えていたレミの驚いた声が聞こえたが気にしない。それよりも彼の言葉に無性に恥ずかしさを感じて、顔が熱くなるのが分かった。
当然いきなり黙って座り込んだ私に視線が向けられているのは見なくても分かり、私の答えを待つような沈黙に耐えられなくなり口を開いた。
「………すき、だよ」
最後の方は消えそうなほど小さな声になってしまったが、それだけ恥ずかしかったんだから仕方がない。ああもうやだ、と小さく呟いて両手で顔を覆った。
すき?
(答えは聞かなくても分かってる)
後日レミに見せてもらった写真には、真っ赤になって俯く私と、同じように真っ赤になって固まった彼の姿が写っていた。
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ソルト様へ相互記念です!
illust「すき?」の文ということでしたので、質問する第三者が居なくては!と思いレミさんに出演して頂きました。レミさんがあんな質問をしたのは自然な照れ顔を撮りたかったからです。二人がいつもいちゃついている時の顔がとても幸せそうなので写真に残しておきたかったんでしょう。教授は照れる通り越して噴火してしまった様ですが(笑)教授は写真苦手そうなイメージあります。しかし団体写真は大丈夫そう。
こんなデスレイで良かったらどうぞ持ち帰ってやってください^^勿論書き直しも大丈夫ですので!
これからもよろしくお願いします!
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