ふに
ふにふにふにふに
「にゃにしてるんらいレスコール」
「いや、柔らかそうだと思ってな」
ふに、ふにふにふに
読書中にいきなり頬をつままれたと思ったら、そのまま揉みしだかれた。一体なんだと思い問えば、さらりとそう返された。
無言で頬を揉み続けるデスコールに読んでいた本を閉じる。目線を上に向ければソファに仰向けになっている私を背もたれの方から覗きこみ私の頬に手を伸ばしている彼の姿があった。
「いひゃい」
「すまない」
ふにふにふにふに
言葉だけで謝られても困る。態度には反省のはの字もないなんて、英国紳士失格だ。
「ひゃめてくれ」
「ん」
「………」
ふにふにふに、ふにふに
拒否の言葉も耳に入らないほど彼は私の頬を揉むのに夢中になっているようだ。私のような、世に言う中年の男の頬など触ってもなにも楽しくないと思うんだけど。
はぁ、と小さなため息を吐き、この状況をどうするべきかと考える。別にそこまで痛い訳ではないからそのままやりたいようにさせてあげてもいいのだけれど、それだとなにかつまらない気がして。
目に止まった彼のマントを思い切り引っ張ってやった。
「ぐっ!?」
ぐらっごろんばたんどさり
マントを引っ張った腕に思いの外力が入っていたらしく、バランスを崩した彼は大きな音を立てながら背もたれを乗り越え一回転してソファの下に倒れ込んだ。
「わぁっ!だ、大丈夫かい!?」
流石にやり過ぎてしまったと思い急いで起き上がりソファの下を覗けば、にゅ、と伸びてきた腕に手を掴まれる。
「へ…うわっ!?」
ぐらりどさりぎゅっ
掴まれた手を下に引かれ重量に逆らう事などできず落下した。なにか暖かいものに包まれたお陰で痛みはほとんどない。思わず瞑ってしまった目を開ければそこに見えるダークグレーのスーツ。
「…デスコール」
「なんだ。先にやったのは君だぞ」
私を抱き締めたまま当然のように言う彼に呆れの溜め息が出る。
「きみね、子供じゃないんだから…」
「人を転ばせておいて良く言うな」
「あれは事故だよ」
「事故?」
「そう」
「そうか……じゃあ、これも事故だ」
ちゅっ
小さなリップ音を立てて頬から離れた彼の形のいい唇を確認した途端顔が熱くなる。多分今私の顔は真っ赤なのだろう。
「でっ…デスコール…!」
「ふむ。やはり柔らかいな」
からかうようににやりと笑って見せる彼が小憎らしくてとても魅力的だったから、直視できなくて胸に顔を埋めた。
「くすぐったい」
「うるさい」
「今日の君は随分甘えん坊だな」
耳をくすぐるような甘く低い声に胸が一杯になって、開いた両手で彼を抱き締め返した。
「………」
「愛している。私のエルシャール」
再び落とされた口付けが妙にくすぐったくて身を捩る。彼の少し低い体温と私の少し高い体温が合わさって丁度良い。
「私も愛しているよ。ジャン」
聞こえるか聞こえないかの声で囁いた。私を抱き締める力が少し強くなったところを見ると聞こえたのだろう。
「今日は、こうしていたいな」
「君が望むならそうしよう」
床の上だとか服が皺になるとかそんなことより目の前の温もりを手放したくなくてそう言えば、彼はとても優しく笑った。
とある日の午後
(とても幸せな二人のおはなし)
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水谷様へ相互記念!
デスレイとの事だったので、あまあまらぶらぶな二人を目指してみました(^P^)あまくなってたら、いいな!こんなデスレイで良かったらどうぞ貰ってやってください^^
これからもよろしくお願いします!
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