「ここは…」


街で偶然見つけた彼を必死に追いかけてきた私はいつの間にか見たことのない場所に来ていた。追いかけていた筈の姿はそこにはなかったが、確信は見つけられた。


「また随分と趣味の悪い…」


私の目の前にそびえ立つその屋敷は大きく一度見たら忘れそうにないものだが、辺り一面を包む得体の知れない雰囲気や不気味に佇むその屋敷の存在感が人々を寄せ付けないのかもしれない。その前にこんな場所にくる人間は居ないのかもしれないが。


(彼は、ここに居る)


この屋敷に来た事は一度もないが、一目見れば分かる。この屋敷の雰囲気と外観は彼の好みそうなものだし、近くに彼の馬車が置かれていたのがその証拠だ。

いつの間にか止めてしまっていたらしい息をゆっくりと吐き出し屋敷へと歩き出す。

直後背中から声が響いた。


「私を付けていたのは君か」


聞き慣れた声に勢いよく振り向く。その先にはよく見知った彼が立っていた。


(あぁ…!)


久しぶりに見たその姿に自然と涙が浮かぶ。会いたかった彼がそこにいる。


「デスコール!良かった、生きていたんだね…っ君がなかなか姿を見せないから心配で心配でっ…あぁでも本当に良かった…君に会いたかったんだ…!」


彼を抱きしめ抑えきれなかった言葉を次々と口にする。心なしか抱きしめた肩がびくりと硬直した様な気がした。


「どうして姿を見せてくれなかったんだい、私は君が心配で…デスコール?」


いつもなら抱きしめ返してくれる筈の彼が何の反応も返さないことに疑問を抱き彼の顔を覗けばそこに彼は居なかった。

その表情を認識した瞬間全身を痛みが襲う。不規則に速くなる鼓動。気付けば私は地面に転がっていた。

突然の出来事を瞬時に理解する事ができず彼を見上げる。

そこに居たのはまるで興味のないものを見るような冷たい表情をした彼。


私の知らない、彼


「デ、スコー…ル?」

「何のつもりだ」

「え…?」

「私の研究でも盗んでやるつもりだったか?生憎私はそんなもの持ち歩いてはいないのだがね」

「な、にを」


言っているんだい?と問いかける前に首筋に冷やりとした感覚。


「残念だが君の様に無価値な男に分け与えてやるような技術を私は持ってない」


その声と首筋に当てられた冷たさにひくり、と喉が鳴る。何故私は彼にサーベルを突きつけられているのだろう。理解できない。

一体何が起こった?彼は何を言っている?


(どうしてこんな事に…?)


震えそうになる声をどうにか絞りだす。


「ッ…デスコール、私だよ、エルシャール・レイトンだ」

「エルシャール・レイトン?ふん、聞いた事の無い名だ」


その一言に思考が黒く塗りつぶされた。


遠のく意識の中冷たく吐き捨てた彼がサーベルを高く振り上げるのを見た気がした。




そこに貴方は居なかった
(居たのは私の知らない彼)


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