薄暗く闇に染まりつつある空の下を愛しい彼と歩く。二人して忙しく中々会う事ができなかったから、こうして二人で話すのは久しぶりだ。良い歳をした大人がこんな事で浮かれるなんて可笑しいかもしれないけれど、私は今、とっても幸せなんだ。
「ふふ、それでね、ルークが」
「今一緒に居るのは私だ」
私の話を遮った彼が放った言葉に一瞬ぴたりと思考が止まり、次の瞬間には顔が熱くなる。
「あ、えっと…」
余裕があるようで意外と子供な彼の嫉妬は分かりやすい。分かりやすいからこっちが恥ずかしくなってしまう。
「顔が赤いぞエルシャール」
すると彼はそんな私の様子に機嫌を良くした様で。さっきまでむっと結ばれていた口元はにやりといつもの笑いになっていた。
「だ…だってそれは君が…」
「英国紳士は責任転嫁をするのか」
「そういう訳じゃ…」
じゃあ君は何故こんなにも真っ赤なのだろうねと悪戯に笑う彼に前から抱き込まれる。余計真っ赤に染まったであろう顔を見られるのが恥ずかしくて顔の首元のファーに顔をうずめた。
「エルシャール。今君と居るのは君を慕う坊やじゃない」
「うん」
「久しぶりに会えたというのに他人の話を楽しそうに話すのを見るのは気に食わない」
「うん。ごめんね」
直球にぶつけられた嫉妬の言葉に胸が暖かくなる。触れた場所から彼の愛が染み込んでくるようで、私は彼に見えないように微笑んだ。
「くすぐったいんだが」
「あ、ごめん」
ぱ、とうずめていた顔を上げれば月明かりに照らされた彼の整った顔が目に入る。そんな彼を直視しているのが恥ずかしくなって目を伏せれば彼からの優しいキスが降り注いだ。
「エルシャール。愛している」
「私も…愛しているよジャン」
いつもよりも幾分か長いキスを終えるといつの間にか絡められていた左手にもう一度キスを落とし、彼は微笑んだ。
「さて。そろそろお別れの時間だ」
「あ、そうだね。もうそんな時間か」
「そんなに寂しそうにしなくてもまたすぐに会いにくるさエルシャール」
「美味しい紅茶を用意しておくよ」
「それは楽しみだ。ほら、全てが闇に包まれない内に帰るんだ」
「うん。またねデスコール」
優しく笑う彼に背を向けて彼にお土産だと貰った高そうな紅茶が入った袋を片手に歩きだす。
(次に彼が来た時にこの紅茶を淹れてあげよう)
彼が次に会いに来る時のことを考えていた私は足元にあった段差に気付かずそのまま通過しようとしたらしい。ふらつく身体と共にカン、と音を立てて彼に貰った大切な紅茶の缶が足元に転がった。
「あっ、やってしまった…」
自分の注意力のなさに溜め息を吐いて夜だからか人の少ない場所でよかったと安堵する。
(デスコール、君の事を考えるとどうも私
は盲目的になってしまうらしい)
自分の考えに苦笑しながら足元の紅茶に手を伸ばす。瞬間視界が白く光りクラクションの音が頭に響いたかと思うとなにか温かいものに包まれそのまま意識を手放した。
薄れゆく意識の中で
(君の声を聞いた気がした)