謎はどんなところにも潜んでいる。ある時は木の中に、ある時は川底に、またある時は道端に。だからと言ってこの状況は、あまりにも唐突すぎた。


「にゃあ」


公園のベンチに腰掛けた私の足下でそう一鳴きしたその毛並みの良い猫は私に謎を持ってきた。


「その帽子は…」


猫の頭には少し大きい見覚えのある帽子がちょこんと乗っている。こんな帽子をかぶっている人物は私が知る限り彼だけだ。しかしここに居るのは正真正銘猫。


「きみ、名前は…」


どうにか手掛かりを見つけようと首の辺りを探してみたが首輪は付いていなかった。


(野良猫?いや、それにしては綺麗な…)


ごろごろと喉を鳴らし手に顔を擦り付ける猫にとある疑惑が浮上する。


「もしかして、デスコール…?」

「にゃう」


流石にそれは無いだろうと思いながらも試しに彼の名前を呼んでみれば、その猫はそうだと言わんばかりに鳴いてみせた。


「本当に君なのかい?」

「にゃーう!」


確かめるかのように猫を抱き上げもう一度問い掛ければ、当たり前だろと言うかのように鳴いてみせる猫。


(そ、そんな…本当に…?)


デスコールが、猫になってしまった!


そう頭で認識すると確かにどことなく彼に似ているように思えてくる。毛艶の良い毛並みも、しなやかで長い手足も。


(ど…どうしよう…)


どうして彼が猫になってしまっているのかなんて検討も付かず、都合の良い解決策なんて浮かばない。


(取りあえず、事情を把握しなければ…!)


混乱する頭でそう考えてみるが、事情を聞くにも彼は今や猫だ。ルークが居れば解決の糸口が掴めたかもしれないが、そのルークは今両親に会うためロンドンに帰省中。


「なう?」


どうした?とでも言うように首を傾げる猫に取りあえずできるだけの事をしてみようと決心した。


「に…にゃあ、」

「?」

「にゃう、にゃん…?」

「にゃ?」

「にゃ!…にゃあ、う?」


いくら猫語(と言えるのかは私も分からない)で話し掛けても首を傾げるばかりの猫に落胆した。同時に顔が真っ赤に染まる。


(恥ずかしい!)


私からしたら猫になってしまったデスコールに話し掛けているつもりでも、端から見たら良い大人が猫相手ににゃんにゃん言っているだけに見えただろう。今は公園に人影など見られないが、通行人とかに見られていたらどうしようと頭を抱える。


「デスコール、何で君は」

「何だ?」


猫なんかになってしまったんだい?そう続く筈だった言葉は名前を呼んだばかりの彼の声に遮られた。驚いて顔を上げれば、そこにはいつもの姿のデスコールが居た。


「き、君…元に戻ったのかい…?」

「何の話だ」


猫がデスコールに戻ったのかと思いそう問えば意味が分からないとでも言うように彼は眉を寄せた。


「だ、だって君、」

「にゃう」

「…へ?デ、スコール?」


猫になっていたのを覚えてないのかと今までの出来事を説明しようとした私の膝には今まで通りにちょこんと座る猫が居た。


(あれ?だってこの猫はデスコールで、目の前の彼もデスコールで…あれ?あれ?)


混乱する私を横目に彼は猫から帽子を外し肩を震わせる。


「私はただ君がその猫を見て私を連想してくれないものかと考えていただけなのだが…とてもいいものが見れた」


くつくつと可笑しそうに笑う彼に漸く落ち着いてきた思考が事の真相を導き出す。


(猫は、彼じゃ、無い…!)


「騙したねデスコール!」

「人聞きの悪い。私はただ猫に帽子を被せて君の前に放っただけだ。君は勝手に猫を私だと勘違いしていたようだがね」

「うっ…」


彼の言っている事は正しい。正論だ。今までの猫とのやりとりを見られていた事実に無性に恥ずかしくなって、顔を伏せる。


(最悪だ…!)


何故あんな事をしてしまったんだと自己嫌悪に悩まされる私の頬にそっと冷たい手が触れる。


「もう一度鳴いてみせてくれないか?」


反省の欠片も見せずからかうようにそう言った彼に無性に悔しくなって、噛みつくようにキスをした。



彼と私と猫の話
(猫の方が断然良い!)


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教授をにゃあにゃあ言わせたかったんだ。ぬこ相手ににゃあにゃあ言っちゃう教授かわいいと思うんだ。あと窮鼠猫を咬むってことわざあるじゃないですか。

最後はそんな感じにしたかった(^ω^)


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