きっかけは何だったのだろう。思い当たる節はないがもう随分と長い間こうしている気がする。
「おい」
「知らない」
「レイトン」
「話し掛けないでくれないかい」
「エルシャール」
「うるさい」
呼んでは拒否されての繰り返し。いい加減意味のないやり取りを止めて彼との甘い一時を楽しみたいのだが彼の機嫌は未だ降下したままだ。
「なんでそんなに機嫌が悪いんだ」
「自分の胸に手を当ててみたらどうだい」
ふい、と逸らされたままの視線に苛つく。視線の先には古い遺跡の分厚い本。私が居るというのにこの男は何でこんな本などに視線を向けているんだ!
「おい、今読む必要はないだろう」
「ふん」
「聞いているのかエルシャール」
「邪魔しないでくれないかい」
「このっ…いい加減にしろエルシャール!大の大人がうじうじと!私に非があるならハッキリ言えば良いだろう!」
彼が一度も此方を見ようとしないのと相手にされない事が気に食わず怒鳴りつければ彼は本をぱたんと閉じて此方を睨みつけた。
「君だっていつも本や論文ばかり読んで私の言葉なんて聞かないじゃないか!そんな君に怒鳴られる筋合いはないよ!」
「ふん、仕返しでもしたつもりか!?私が居るというのに本に熱中とは、真面目な事だなエルシャール・レイトン!」
「自分の事は棚に上げて私を否定するなんて君は英国紳士失格だね!」
「なっ…私がいつ自分の事を英国紳士だと名乗ったと言うんだ!」
「うるさいよ!デスコールの馬鹿!もう知らない!」
英国紳士とは思えない言葉を私に浴びせ再び視線を逸らした彼に口元がひくりと引きつる。
「おい…まさかせっかくの時間をこんなくだらない事で潰す気か?」
何時までも終わりそうのない不毛なやりとりに更に苛々が募っていく。
「…か」
「何て言ったんだ。聞こえない」
彼がぼそりと呟いた声に聞き返すと午前は君が潰したんじゃないかとくぐもった声が聞こえた。
(午前?午前は確か)
「君は持ち込んだ論文をずっと読んでいたじゃないか」
そうだ。午前は最近名の知れ始めた科学者の論文を読んでいた。名前はもう忘れてしまったが探せば何処にでもあるような実に平凡な論文だった気がする。
「私がいくら話し掛けてもあぁとかそうかとしか言わないしこっちを見ないし」
ソファの上で膝を抱えてぶつぶつと文句を言い続ける彼の言葉に自然と口角が上がる。彼は自分の言葉がどれだけの甘さを含んだものなのか気付いているのだろうか。
「今日は君と1日話せる筈だったのに」
拗ねたように小さくそう呟く彼がいじらしくて。さっきまで降下していた機嫌がぐんぐんと上昇していくのが分かる。
(あぁ、なんて愛おしい!)
膝に顔をうずめたままそっぽを向く可愛い彼を背中から抱きしめた。
こっちを向いて
(今日は夜まで二人で過ごそう)
-------------------------------
他から聞いたら惚気にしか聞こえない喧嘩をするデスレイとか拗ねた先生とか美味しいよねと思って書いた。連載が暗めだから息抜きにほのぼの書こうとしたら何か甘くなった。とにかく二人はラブラブ。
← →