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思いもよらぬ突然の休みに私は戸惑った。
休みになったらやろうと思っていた事も頭の中から消え去り、
どうしようか迷った末、
元の職場である喫茶店があった場所に向かっていた。

喫茶店があった場所は貸し店舗の看板が立っており、
面影の有る店内には椅子と机が休業日のように積み上げられていた。

もしも店長がいたからといって話す事などないのに、
何故この場所に足が向いたのか分からなかった。
また自動車でも突っ込んだのかと私は期待でもしていたのだろうか、
それともあるのかさえ怪しい感傷に浸りたかったのだろうか。

不意に店の奥に光る物を見つけた。
立ち入り禁止の縄を乗り越えて窓に張り付くように見た。

見覚えのない物だった。
誰か不法侵入でもしたのだろうか、
ガラスの小瓶、しかも小瓶の口には飴色の液体が鈍く反射している。

改装業者が使う薬品でもないようだし、
そもそも貸し店舗に放置しておくようなものでもない。
誰かが入って中に飲み物の入った瓶を忘れて行ったのだろう。
きっと夜にでもなれば性質の悪い連中の溜まり場になるのだろう。

それはそれで嫌だった。

元は私の職場だ。
私が居た時はちょくちょく車が入って来るので性質の悪い連中さえも寄りつかなかった。
そんな連中が閉店後に入っているなんて考えただけでも鳥肌が立った。

想像の域を出ないそれは妙に生々しく、
肌を刺した。

仕方なく、自分を安心させる為に入口から堂々と侵入した。
机が置いて行かれているのだ、
アレも置いて行かれているかもしれない。

カウンターの裏を探すと簡単に見つかった。
粘着性の強いシートが張られた厚紙だ。

通常ネズミ捕りに使われる。
もしくは口にもしたくないGを捕まえるのに使用する。
予備を含めて六つを出て行く途中で出入り口に仕掛けた。
特に意味のない行動に一安心し、
誰か捕まれば良い!
等という小心者の善良市民的思考に満足して帰宅の途についた。

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