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再び扉が乱暴に叩かれた。
今度は扉を少しだけ開けて、覗き見た。
先程と同じ男がいる。
男の背後には大きな男もいる。

「宗教勧誘なら他をあたって下さい!」

閉じようとした扉は無理に開けられ、
取っ手を押さえていた体ごと引きずられた。

「おい、飛弾。乱暴に扱うな」

大きな男が無理矢理扉を開けた男へ声をかけた。
乱暴に扱うな、は私に対してだろうか、それとも何度も吹き飛ばされている扉へだろうか。

「あ、悪い。普通の人間は簡単に死んじまうんだったな」

男が簡単に口にする言葉は私が大嫌いな言葉だった。

「勝手に殺さないで! 私は生きてます!」

腹が立ってたまらなかった。
だから、今度こそ全力で取っ手を握りしめて扉を閉めた。
閉じると同時に鍵を掛けた。

また扉が叩かれた。
返事をせずにいると、背後に居た男の声がした。

「悪かった、謝らせる。だから、さっさとこの扉を開けろ」

溜め息交じりの声。
と同時に明らかに拳とは違う物が扉にぶつかった音がした。

「痛え! っあ、悪かった。悪かったって」

扉のすごく近くで声がする。
頭をぶつけたらしい。

仕方なく開錠して扉を開けると、想像していた通り男が頭から入ってきた。
背後に立っていた男が男の頭を押さえつけて謝らせたようだった。
二人を応接間に通し、お茶を出してデイダラさんとサソリさんを呼びに奥へ行くと、
二人はスプーンを咥えたまま二階にも地下にも行かず待っていた。

「額の広い宗教勧誘と大柄の男性が来られています」

声が聞こえていた、と二人はスプーンとアイス片手に応接間へ戻った。

「飛段、事務所のアルバイトまで勧誘するのは止めろ。
ガキの面倒はちゃんとしやがれ」

サソリさんは二人を一瞥するなり言って、ソファに乱暴に座った。
アイスを食べるのを止めず、客ではなく知り合いのようだった。
サソリさんだけの知り合いかと思っているとそうでもないらしく、
デイダラさんも親しげに話し始めた。

邪魔になっては悪いと給湯室に引っ込もうとした時、サソリさんがスプーンを振って止めた。

「おい、you。ここにいろ。
角都どうせ金の要件で来たんだろう、事務所の会計はこいつがやってる。
ここの金ならこいつに聞け」

大柄の男は黙って私を睨みつけた、ように見えた。
口元に布をしているのはサソリさんの人形と同じ、
人相が良くないのも同じ。
しかし、中にサソリさんのような人は入っていないだろう。

「事務所の領収書を持って来い、俺が見る」

男の言葉に戸惑った。
いくらデイダラさんとサソリさんの知り合いだからといっても、
簡単に事務所の領収書を見せる気にはなれなかった。
領収書を見せるということは事務所の実態を晒すのと同じだ。
別段見られて困るような領収書は無いのだが、嫌だった。

「このデコの広い宗教馬鹿が飛段、デッカイおっさんが角都だ。うん。
同じ組織の連中で、組織の財布を握ってるのがこのおっさんだ。うん」

デイダラさんが空になったカップとスプーンを振り回しながら説明してくれた。
多分、組織の会計ということだ。
どんな組織なのかは分からないが、きっと人員に困っている組織なんだろうと想像しつつ、
領収書を取りに給湯室に入った。

与えられていた小さな手提げ型の金庫を持って応接間に戻り、
その場で金庫を開けて領収書を取り出して角都という人に手渡した。

まとめてある領収書を一通り見て、角都さんは目を僅かに細めた。

「youだったか、座れ」

座る場所も無く立ち尽くしていた私を角都さんは近くに呼び、予備の椅子に座るように言った。
それに従い椅子に座ると、領収書の確認を取られた。

「このアイス代金の多さはなんだ」

それは私も言いたい。
領収書の殆どはアイス代だからだ。

「その他の消耗品購入が少ないからです。食品はアイスと氷、茶葉、調味料以外はありません」

短く答えると領収書を繰り、備品の領収書を示した。

「このアイス用スプーンはなんなんだ」

「アイスを食べるのに必要だったスプーンです。高価ですが質も良いので減価償却できる品です」

何故、アイスばかりなのだと顔から滲んでいた。

「へー、俺もアイス食べたいな」

宗教男、飛段さんが呟いた。
どうしてやろうかと見ていると、デイダラさんが立ち上がり、給湯室に跳ねて行った。
戻ってきた時は手にアイスを三つ持っていた。
宙に三つのアイスカップを放り投げ、
サソリさんと飛段さんが取った。
残った一つをソファに滑り込むと同時に取って、デイダラさんは本日三つ目のアイスに手をつけた。

「アイス関連の料金が高い理由は」

「ご覧の通りの理由です」

アイスを食べていない私と角都さんはアイスを食べる三人を黙って見つめた。
サソリさんは「文句でもあるのか」と目で語っている。

「他の領収書が少ないのは、アイスの領収書が異常に多い所為か」

目を閉じて深い溜め息をつく角都さん。
私は優しく否定した。
アイス代金が高いのもあるが、理由は他にもある。

「消耗品の殆どを購入しないからです。
床や机、扉などがしばしば破損しますが、殆どサソリさんが修繕してくださるお蔭です。
紙とペン以外の消耗品購入が殆ど無いのでアイスの代金が更に多く見えるのだと思います」

因みに、私のアルバイト代などアイスの代金に比べれば大したことは無い。
割の良い仕事だが、アイスには負けている。

角都さんから他にも請け負った仕事や売買したチャクラの事などを訊ねられたが、
請け負った仕事など殆どなく、
売る予定だったチャクラの込められた鏡は冷蔵庫に役立っていると答えた。

手短に説明すると角都さんは押し黙り、
再度領収書のチェックを始めた。

「サソリ、デイダラ、後で話がある」

多分、アイスの代金が高過ぎるとかいう件で叱られるんだろうと予想できた。

珍しく昼食を準備するように言われ、
まずまずの出来のサボテン料理をメインに四人分の軽食を作らされると
早々に事務所を放り出された。

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