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「冷たーい!」

身震いした。

持ち帰った鏡は何故か冷蔵庫に組み込まれた。
冷蔵庫は低い温度を維持する素晴らしい装置で、これも電気で動いている。
風と水の術を蓄えた電気で動いているらしく、夏場に大活躍している。
それまで長期間保存できなかった食材などが長持ちするようになった、食品の鮮度を保つのにこれ以上の存在はない。

アイスクリームなどを茶屋で提供することができたのは冷蔵庫の存在なくして無い。

事務所にあったのは茶屋のように大きな冷蔵庫ではなく、家庭用の冷蔵庫。
電気を組み込んでいる部分へガチャガチャと鏡を嵌めこもうとしていたデイダラさんを押し退けて、サソリさんが手を伸ばした。

「ダンナ、その腕じゃ流石に無理だろう。うん」

「仕方ねぇな」

そう言って、数歩下がった。

がこっ

また床板がずれたのかと身を縮めたが、そうではないらしい。
サソリさんの丸めた背中が膨らんでいた。

まさか、骨が外れたり……
するわけがない。
そんなに簡単に骨が外れるわけがない。

ズルリとサソリさんのコートから横に何か出てきた。
奥の手というものでもあるのだろうか。

「サソリさんが……分裂した」

「成程、そうも見えるな。うん」

赤毛の、デイダラさんと時々茶屋に来ていた男性が冷蔵庫に向かっていた。
サソリさんから出てきたのは、サソリさんとは似ても似つかない少年にすら見える男性だった。
冷蔵庫へ器用に鏡を嵌めこみながら、肩越しに睨みつけてくる。
背筋が凍るような感覚と、どこから出てきたのかという疑問に目眩を覚えた。

それを当然のように見ているデイダラさんは、勿論この男性を知っているのだ。
そうでなければ私の「分裂」失言に納得するはずがない。
むしろ、誰だ。

「くだらねぇこと言ってると……後悔するぞ」

作業を終えた男性は、横目で睨みながらサソリさんの隣に行きコートの下に潜った。

「ちなみに、あっちがサソリのダンナだから。次からは驚くなよ、うん」

「ぁ、はい」

はぁああ?!
何が「ぁ、はい」だ私!
どこをどう理解したんだ。
驚くなという方が無理だろう。

そして、臨時収入になるはずだった鏡を利用して稼働力を上げた冷蔵庫の冷凍部分からボーナス=アイスクリームを手渡された。

それで今日の苦労と疑問が吹き飛んでしまったのだから、私はかなり安上がりに出来ている。
服の洗濯や、井戸に潜らされた労力を天秤に掛けるとアイス一つでは全く足りないのだが、
暑い日に食べられるアイスは本当に美味しいのだから仕方ない。

仕方ないから、きっと後から後悔する。


**

つづく。きっと

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