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自分の体が細い事を今までになかったほどに後悔している。

私の体が意外と細いと分かったデイダラさんとサソリさんは、服の繕いも片付けも後回しにして私を連れ出した。
街の外れにある森まで早足で移動すると大きな石壁の前があった。
街外れで、こんな森の奥まで来るなんて子供の時以来だ。
しかも、こちらの方面には殆ど来た事がない。

昔は忍の戦闘も数多く行われ、沢山の血を吸ったというこの森は大人達が近づかないようにと言っていた。
ほんの少し前まで本当に忍の戦闘が行われていたのは確かで、時折爆音がしていた。
子供心に恐ろしくもあり、興味があった。
足を向けたこともあったが、子供の足では遠かった。

大きな石壁の前でデイダラさんが手を擦りつけると、石は左右に割れて動いた。
これは一体、なんだろう。
まさか、電気で動いてる?
それとも、まさかまさかのデイダラさんが忍?
ありえない事もない。
未だに忍は残っていると言われている。
それも現実味を帯びて。

「この奥だ」

サソリさんが中に入る様に言った。
デイダラさんと石の壁とを見比べて、足を踏み入れた。

中は直ぐに石の階段があり、それを少し下ると広い空間に出た。
何故か事務所で見たような煤汚れがある、それに何か引っ掻いたような傷も。
それを考える間もなく、
空間の真ん中に一つだけポツンとある井戸を示された。

「あれだ、うん」

近寄って見ても、やはり井戸だ。
しかも小さい上に枯れている。

「入れ」

サソリさんは冷たく宣告した。


そのお陰で今まさに、この狭い井戸の中にいる。

井戸桶に足を入れて、紐を掴んで、圧迫感のある井戸の中は息苦しい。
先に下ろした蝋燭の所為かもしれないが、井戸の底で息ができるかどうかを確かめる為に仕方がない。
腰に命綱の紐を回しているのも何だか嫌だ。

井戸の底は湿っているものの、やはり枯れていた。
桶から足を出して足元を確かめる。

「降りました」

「よーし、そこら辺に鏡は無いか? うん」

頭上から降ってくる声は無慈悲だ。
蝋燭を持って周囲を照らすと一か所、横に抜ける場所がある。
屈めば入れるだろう。
そう、屈めば。
十中八九、足が汚れる。

まさかと思いつつ蝋燭の灯りを横穴に向けた。
ほんの少し奥で光った。

多分、あそこにある。
溜め息をついて、息を深く吸い込み、覚悟を決めた。
思い切って膝をつき、奥に体を入れて手を伸ばした。
光ったそれを掴んで蝋燭の光で、自分の顔が映った事を確認して体を戻した。

「ありました」

「よくやった。上げるから乗れ、うん」

素早く桶に足をかけると横穴から妙な音がした。
何かが割れるような音だ。

「うん?」

別にデイダラさんの真似をしたわけではない。
単なる感嘆詞だ。
その感嘆詞は驚嘆に変わった。

「うっそ、どっから出てきたの」

横穴から凄まじい勢いで水が溢れてきた。

持っていた紐が急激に引き上げられる。
頭をぶつけないように紐に摺り寄せて、みるみる内に増える水を見ていた。
水は直ぐ足元にまで迫っている。
井戸から出るのが先か、水に追いつかれるのが先か。
水の方が早い。

もうそこまで出口が迫っているのに。
見上げた途端に帯のような物が身体に巻き付いた。
サソリさんの尾のような物が再び私を助けてくれたようだ。

引き上げられると無重力感が体を覆う。
放り投げられた。
気付いた時には階段にぶつかっていた。

「あっいたた」

なんて災難、ぶつけた背中が痛い。
ヨッコラセと体を起こそうとした時に寒気がした。
そのまま動かずに階段に這っていると顔の直ぐ上で横槍が滑り出た。

目が点になる。

少しだけ顎を引いて目を最大限動かす。
井戸から溢れた水が床を濡らし始めている、波立つ中でデイダラさんとサソリさんはまるで踊っていた。
床から突き出す槍、壁からも噴き出す水、音を立てて落ちてくる天井。
行く手を塞ぐように刃物がぶら下がる。

「やっぱりトラップだ、うん」

余裕で腕を腰にあるポーチの中に突っ込んでデイダラさんはこちらに走ってくる。
起き上がろうにも動けない。
かなり低い位置、壁に変な穴がある。
明らかにココから槍が出ますよって感じの穴がある。

なんでこうなった私の人生。
どうしてこうなった今日の服。

素早く動けば槍が出るより先に逃げられるだろうか。
考えている中で爆発音が響いた。
爆風の中を白い大きな鳥に乗ってデイダラさんが飛ぶ。
それに体躯を思わせない身軽さでサソリさんも乗る。
先程の爆風でぶら下がっている刃物は道を開け、その間を鳥が飛ぶ。
さっきまでこんな鳥はいなかった。

さらに、勝手に私の体は動きだした。
目眩がするような速さで起き上がり、飛び出した槍を避けた。
自分の意志に反して動く体は鳥に飛び移り、しっかりと捕まった。

「回収終了だ、うん」

回収って。
鏡のついでに私を回収したでしょ。

羽をたたんで階段の上を飛ぶ鳥の下、階段はバラバラと崩れ落ちていく。
階段を抜けた先には空が広がっていた。
左右に別れた石壁が徐々に閉じ始めていた、どうやっても外に出したくない物がある、そんな閉じ方だった。

「これって、取ってきて良かったんでしょうか?」

「今から返しに行くつもりか?」

石壁は閉じる間際、水が壁を濡らしている。

「止めとけ、うん」

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