3


「いっ」

急に訪れた足元の損失感。
背中から落ちる。
きっと痛い。
痛いのは嫌だ。
手にしたコートを抱きしめるように身体を丸めて恐怖と痛みに身構えた。
奥歯を噛みしめて、瞼を閉じて、身体を抱きしめた。

最初に背中に感触があった。
平たいもので叩かれたような、痛みが斜めに走る。
次いで左腕に帯のような物が巻き付いて、それが右腕に回った。
絞めつけられた訳ではないのに圧迫感がした。

足と頭が背中より下になる。
のけ反った状態に首と腰が強烈に痛んだ。

「うっあぁは」

頭を上げて目を開けると落ちた穴と木漏れ日のように射してくる光、
そして暗がりに吊るされた人。

口から声は出なかった。
出せなかったと言った方が正しい。
ただ金魚みたいに口を開閉させて声にならない叫びを上げた。

急に視界が傾いて足に固い物が当たる。
目を動かして何が起きているのか探った。
暗がりに赤い雲の模様が浮かぶ。
自分の腕にあるデイダラさんのコートではない。
暗がりでより一層人相が悪くなったサソリさんだった。

サソリさんが立っている床に降ろされると、帯のような物は外れた。
それは先が尖って、幾つもの間接で作られた虫の尾のような物で、サソリさんの後ろに繋がっていた。

「大丈夫か? うん」

上の穴からデイダラさんが顔を覗かせた。
それに向かって木の破片が飛んだ。
飛んできた方向を見るとサソリさんに繋がる尾のような物が動いていた。

「デイダラ、てめぇ邪魔すんじゃねぇ」

「オイラは邪魔なんかしてない、うん」

既に穴から顔は消えているが声は上からしている。

「お前もあんな穴なんかに落ちるんじゃねぇ」

細い目から迫力の視線が発せられる。
思わずたじろいた。

「す、すいません!」

頭を下げて、その顔を見ないように謝った。
この人、顔が怖い。
めちゃくちゃ怖い。

「うーん、youお前意外と細いな」

サソリさんの後ろ、奥の方からいつの間に移動したのかデイダラさんが階段を降りてきていた。
随分と足の速い人だ。

「あの穴、これ位しか無いぞ、うん」

デイダラさんが手で示した幅はそれ程大きくない。
水浴びをするタライには絶対に足りない大きさを示している。
改めて頭上の穴を見上げるが、良く分からない。

それよりも気になるのが、デイダラさんの掌で何か動いた。
ように見えた。
何だろう、サソリさんの尻尾のような物も気になるが、デイダラさんの掌で動いた物も気になる。

「そんなちいせぇ穴なら余計だ」

後ろも振り返らずにサソリさんは更に言葉を続けた。

「私はそんなに小さくないですよ」

多々気になる事はおいておいて、
流石にデイダラさんが示す大きさは酷過ぎる。
私だって一応は女だ、身体には小さいながら凹凸がある。
すっぽりと抜けた感があるから、もっと大きな穴に落ちたはずだ。

「……あの大きさなら通る……」

至近距離の呟きを聞き逃すハズが無かった。

「そんなことありません!」

断固として講義すると、上に階に連れて行かれた。
件の落ちた穴の傍に三人して立つ。
近くで見れば、何故こんなにこの穴は小さいのかと腹が立った。
絶対にこの穴に落ちてはいない。

認めない私に用意されたのは、長い紐の先に板が取り付けられた即席つるべ落とし。
天井のファンに紐を引っ掛けて穴に板を落とし、通る事を確かめた。
その上で私に乗る様に言った。

「ファンが壊れますよ」

「オイラがぶら下がっても大丈夫だった、うん」

まさかデイダラさんよりも重たいと自己申告するわけにもいかず、渋々板の上に乗った。
デイダラさんが紐の端を持っているのだが、かなりの力持ちの様子で私が乗った所でびくともしない。

それから件の穴にゆっくりと降ろされた。

足、ぐらいは通る。
当然。
腰……、も上手い具合に通った。
………。
……。

頭まで通った後に、引き戻された。

「……」

「……通ったじゃねぇか」

認めたくない。
認めたくない、もっと体に凸凹があるハズだもん。
痩せてるっていうのが理想のボディじゃないんだもん。
細い男に間違われるような身体じゃないもん。

少し、すねた。

「気にすんな。この位細けりゃ狭い所に潜り込むのに好都合だろう、うん」

涙目の視界の端でデイダラさんは笑った。

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