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重い瞼を開けると、大きなファンがゆっくりと回っていた。
目だけを動かすと左側に布の壁があった。
右には顔と同じくらいの高さに木製の机があった。
上体を起こすと頭痛がした。
思わず額を押さえると、特にヒリヒリする。
記憶を辿ると、扉に激突した覚えがある。

「いったぁ」

布の壁、長椅子の背もたれに手をかけて長椅子から足を下ろして座り直した。

「起きたか? うん」

「うん」? 何で、「うん」?
蕩けそうな視界のド真ん中に映ったのは扉から顔を覗かせていた男性だ。
額から手を離し、視野を広くすると何処にいるのかがやっと見えた。
クリーム色の壁、天井で回るファン、長椅子の向かいに一人掛けの椅子が二つ、その間にある木製の机。
多分事務所の中に運び込まれたのだ。

「はい。あの、求人があると聞いて来たんですが」

昨日トビさんが書いてくれたメモを机に置いて渡した。
紙と私の顔を交互に見比べて、組んでいた腕を解いて紙を摘み上げた。

焦点が合い始めたことで、向いに座っている人物の事を思い出した。
前のバイト先に何度か来ていた筈だ。
確か、背中を曲げた男性とよく一緒に来ていた。
供の男性は一切注文をしないのに、一人だけ食べていた。
背中を曲げた男性でなければ飲み物やアイスばかりを注文する、周囲の女性の視線を釘付けにするような男性と来ていた。
どちらからも名前は「デイダラ」と呼ばれていた気がする。

「オイラはデイダラ。あんたの名前は? うん」

「私はyouといいます。昨日まで勤めていた店がなくなってしまったので、こちらの求人に来たのですが……」

「あの店やっぱり潰れたのか、うん。昨日も自動車が突っ込んでたからな、うん」

特に驚いた様子もなく「やっぱり」という所が、前のバイト先がどういった意味で有名だったのかを物語っている。

「you、あんた給仕やってたろ? うん」

「はい」

デイダラさんは口の端を上げて笑った。
左目を隠すように降ろされている黄色い髪の毛で顔の半分は見えないが、明らかに笑った。

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