お祝いして


「茶ぐらい出せよ」
 勝手に人の家に上がり込んで来た猿は図々しくも言った。しかも、私のお気に入りのクッションの上でだ。
「全員が平等」
 それは猿に向けてと、他の神に向けてだ。厚かましく人の家に上がり込んだ神は猿だけではない。猿はブッスリとむくれた。
 そこらへんの花の神、潰されてしまった川の神、転がっていた石の神が勝手に座って話している。別に拾ったわけではない。勝手についてきたんだこいつらは。しかも、「勝手知ったるなんとやら」と自分でお茶を入れるサービス実行中。去れ、自己中の有象無象の神共。
「…ケチな人間」
「人間なんて貪欲で強欲で、汚れてるのよ。知らない?」
 溜息一つで納得したようだ。なんで納得する。
「ところで嬢ちゃん。どうやった?」
 川のジィさんが欠けた湯呑で、湯気の立つ茶を勝手に飲んでいた。
 ジィさんの言葉が私の心を広くした。そうだ、今日はとっても気分が良い日なのだ。とっても。
「うん。可愛かった」
 ジィさんが深いしわを更に深くして、頷いた。
 にんまり笑う。そして、冷蔵庫の扉を開け、昨日買ったロールケーキを取り出した。頭数を数えて切り分ける。
 ロールケーキを皿に取り分け、フォークも付けて渡していく。最後に猿に渡して、小さな机に座った。
「どうしたんだケチな人間」
「どうこうもないけど。ただね、世界はやっぱり滅ばないと思う」
 どこぞの誰かが言っていた、世界が滅ぶから救済しようと神々は現れたのだと。神が現れたから、世界は滅ぶのか。
 結果の為の過程なのか、過程の為の結果なのか。
「もし、世界が滅ぶのなら何の罪もない子供が可哀想じゃない。だったら神様は子供を生まれさせたりしないと思う」
 先月、兄に子供が生まれた。今日はその為に病院まで遠出した。
初めて赤ん坊に触った時、柔らかくて崩れてしまいそうな頬に笑窪があった。重たくって、泣き喚いて、それでもしっかりと私の指を掴んで離さない小さな紅葉。
穢れのない笑顔が連帯責任なんかで消せるはずがない。

「お祝いして。可愛い子供に」
 ニッカと猿は満面の笑みでロールケーキに齧りついた。
「応。祝おう、子の未来は明るいぞ」
 無責任に言うそれが、嬉しかった。
「名付け親になってやってもいいぞ」
 調子に乗って、猿がクリームを付けた口で言った。
「黙れ猿」

終わり

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