9p(見切り発車はいかんなぁと実感中)
昼食と称して乗り付けたレストランで、カロルは甘ったるいカフェオレをすすった。
目の前ではラザニアを頬張る一二三と、ドリアにスプーンを突き立てたままクレームブリュレを叩き割っているファラッドがいる。
隣がやけ涼しいのか熱いのか、カロルには分からなかった。
「なんだ、握り飯もないのか? この店は」
どうしてレストランでわざわざ握り飯を探すのかカロルには検討もつかなかった。
しかし、邪推はできる。
ただの嫌味だ。
「カルボナーラで我慢するか」
「大人なら言わずに我慢できないんですか?
にがーい珈琲は飲むクセに」
カロルが言いたくても言えないことを一二三は言う。
内心、賞賛を送ったのはファラッドも同じだ。
「食べたい気分だったんだ。
お前ならこの店にラザニアがなければどうする?」
一二三は視線を左右に泳がせた後、フォークを振り回しながら答えた。
「回れ右して他の店を探します。
それか厨房に直談判しますよ、もちろんお土産付きで。
それでもダメなら入り口が四つ減りますね」
一二三の言う「お土産」というのはピンを引けば火薬に点火する玩具や、引き金を引けば金属製の球が飛び出す玩具だ。
店側にしてみれば一方的な、しかも理不尽な仕打ちに違いない。
「一二三それはやり過ぎだ。
二つにしておけ」
ファラッドも同意するのだから、この二人はメニューが気に入らなけば実行するのだろう。
「だから、文句を言うだけの方がまだ理性的だと思わないか」
「そうかもね。所長なら無言の内に実行しそうですもんね『珈琲が不味い』とかいう理由で」
珈琲が不味い、メニューが気に入らない、どちらも理不尽な言い分に違いない。
カロルは唯一の常識人として、いざとなったらこの店を買収する決心をした。
物騒な四人組の考えなどよそに熱いカルボナーラは笑顔の店員に運ばれてきた。
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