8p(もしかして、今更本題に入るんですか?)
正確に依頼人を確認し、形式的な手続きを済ませ、一二三とファラッドは指示を待った。
依頼遂行までの手順を決めるのは事務所長の仕事だった。
その仕事は他の誰にもできなかった、同時にさせなかった。
「期日が差し迫っているようだが、延長は可能だな?」
「せめて、断定しないように質問してくれないか?
今回に限っては可能だ。
しかし、可能な限り期日までに完了してくれ」
カロルは上司を完全に頭の中から除外し、書類を片手に悩みこんだ相手を見た。
その細い首を絞ることができたのなら、どれだけの精神的苦痛が減少することか。
そして、どれだけの事務処理や不必要な処理が激増することか。
カロルは天秤にかけ、いつも後者の負担に負ける。
「逢引の現場に案内しろ。
今から仕事にかかる、一二三は車の準備を、ファラッドは荷物をまとめろ」
逢引の現場ではないと喚いたのはファラッドとカロルだった。
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荷物で狭くなった車内に大人四人が詰め込まれていた。
ハンドルを握るファラッドの隣では一二三がラジオを弄り、
その後ろでカロルが電話をしていた。
「そうか、お前もか。
いや、仕方がない。こいつが悪いんだ」
電話口に向かってカロルは唇を噛みしめ、隣の涼しい顔を睨んだ。
通話を終えたカロルは深い溜息をついた。
「案内が他にいなかったんならそう言え」
「俺の言葉を先にとるな。
仕方がないだろう、今回の現場は特殊な場所に特殊な連中を放り込むんだ」
思わずカロルは拳を握っていた。
今なら、隣にあるこの小奇麗な顔を殴れる。
殴った代償が拳の痛みだけではない、そんな奴だが、思わず拳を握ってしまっていた。
「その特殊な連中にすがらなきゃいけない奴が、細かいことで文句を言うな。
お前が案内をすればいいだけの話だろう」
それが嫌でたまらなかったから、カロルは他に案内を出来る者を探した。
事前に探してはいたのだが見つからなかった。
そして、最後の頼みの綱に先ほど断られたのだった。
現場が、演習場でなく、弱い人間が立ち入れないような場所でなければ。
下請け事務所がここでなければ、せめて所長が同行しなければ。
一番の問題はこの涼しい顔で毒を吐く、毒以上に役立つのだから利用している。
「あぁ、そうさせてもらう」
観念したカロルは苦々しく吐き出した。
「やったあ! お昼はラザニア〜」
一二三とファラッドは小さくガッツポーズをとった。
カロルは再度深い溜息をついた。
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