7p(カロルの上司です)


絶世の美女、世間一般にはそう言われる女性だろう。
パンツスーツを履きこなし、いかにも「世界は私の為に回っているのよ」と顔に書いてあるくらい自信に満ち満ちている顔だった。

「ふん、カロルは連れて行くのでしょう?
彼を連れてきた上司も連れて行くべきではないかしら?」

「所長が連れてこいっていったのは『ハンドルを握りつぶしそうな』やつ。
あんたはハンドル握ってなかった」

どうやら一二三にはカロルの上司が気に入らなかったようだった。
カロルが小さく溜息をついて手を振る。
一人で行かせてくれという部下の合図は上司に伝わらなかった。

「付いて来たいんですか?」

仕方なくファラッドが問いかけた。

「いいえ。あなた達がわたくしを連れて行きたいのよ」

自分の髪を指で払い、芳香をばら撒いた。
見とれたくなるほど様になる仕草だ。
残念ながら、一二三とファラッドには「綺麗な花には棘どころではなく毒がある」ことを知っていた。
その毒は美的感覚を混乱させるほどの免疫が必要だった。

**

花は美しいから毒があるのか、
毒があるから美しく咲くのか、
行動の断片を集めると後者であるだろうファラッドと一二三の上司は開口一番に毒を吐き出した。

「戻して来い。空き箱に入ってたからって拾ってくるなと何度言わせるんだ?」

カロルの上司を一瞥して、珈琲カップに新しい液体を注いだ。

「ほら〜。帰れ、帰れ〜。私たちが怒られたでしょ〜」

ここぞとばかりに一二三は女に手を振った。
腹立たしい仕打ちに女は口角を下げただけだった。
自分の美貌というプライドを打ち砕かれているはずの女は、靴音高らかに事務所内へ入った。

「カロルの上司、フレイと呼んで」

「フレイ。出口は三歩下がって右だ」

卓上の植物の葉を指で弾きながら、フレイのプライドを無言の内に破壊した本人は悪魔で優雅に命令を下した。

「こちらのご婦人はご用件がないらしい。一二三、ファラッド、放り出せ」

「カロルからの依頼はわたくしの依頼でもあります。
あまり客人に傍若無人な態度をとっていると仕事がなくなりますよ」

勝手にソファへ座ったフレイは足を組んだ。
来客用のソファはその柔らかな仕草に軋んだ。
ファラッドと一二三は溜息一つ吐き、ソファごとフレイを持ち上げて足で事務所のドアを開けた。

ソファを担いで出て行った一二三とファラッドは二人だけで戻ってきた。

「さて、依頼人を確かめておこうか。カロル」

「……俺だ」

カロルは他に答えようがなかった。

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