5p(だから、前置きが長いんだって)


ファラッドの減給が行われる前に、ファラッドの撤回は許可された。
理不尽な理由で部下の減給をするのが趣味、ファラッドと一二三の上司プロフィールには記載されていた。
以前に、自分を解体するファラッドと一二三の夢を見たから暫くの間は減給すると言い出した日もあった。
本当の理由は珈琲を淹れたら失敗した腹いせだったに違いない。

なんにせよ、多少の減給など痛くもない給与だが、意味もなく減給されるのは嫌だった。
尚且つ、減給は五十パーセントから始まるところが恐ろしい。

「で、本題に戻るが。どこぞの幼児趣味の童話作家から仕事があったんだろう?
お前の『友人』で事務所に名乗ることもできずに依頼しようとする奴なんてあいつ位だ」

「そもそも、この事務所に仕事持ってくる方が少ないですもんね〜」

喧嘩を売っているのかと思うような口ぶりで、一二三はソファで転がった。
この猫のような女をどうしてくれようか、ファラッドは苛立ちを隠せなかった。
いっそのことソファの上に身を投げて、押しつぶしてやろうかとも思ったが、
そんなものを完全に無視して珈琲を飲み干していくだろう上司に見られたくもなかったし、
軽々とファラッドから逃れもでき逆に押し倒すこともできる一二三には無駄だった。

だから、ファラッドは上司を利用することにした。

「一二三は減給の対象にはならないんですか?」

「ファラッド、良い質問だ。
精神的苦痛に対する賠償と、どちらが有効か悩んでいたところだ」

「あぁ、ごめんなさい。ごめんなさい」

ソファから身を起こして何度も謝る。
彼らの上司は物理的にだけではなく精神的に恐ろしいのだと刷り込まれていた。
取っ組み合いになれば、その細首など簡単にへし折れるのだが、そこに至るまでがどれだけ苦しいものになるか分からない。
そもそも、彼らはこの環境を提供してくれている上司が心のどこかで好きだった。

決して口には出したくないが、彼らは彼らの上司が創り出す今の環境に十分にとはいかないが満足していた。

「許してほしければ、そうだな、
車の中でハンドルを握りつぶそうとしているファラッドの恋人を連れてこい」

「だから、なんでそう爆弾を投げ込むんですか。
どこですか?」

ファラッドは、まさか嫌がっているカロル本人が来るとは思っていなかった。
わざわざ来るなら自分を深夜に連れ出したりしなかったはずだ。
嘘だろう、といった目で上司を睨むと眼鏡越しの冷ややかな視線が返ってきた。

「下の駐車場。東の端だ」

一二三は黙ってソファから飛び上がり、ファラッドの腕を掴むと事務所の扉から出かけた。

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