3p(ここまでプロローグを引っ張ればいいだろう)
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「これは、また立派な……」
ファラッドは思わず漏らした。
カロルが連れてきた場所は郊外の家、屋敷にもとれるほど大きな物だった。
既に持ち主が去って久しいのか、外壁を伝う蔓が無駄に古めかしさを醸し出していた。
出入り口には鉄の扉。
車では入れないので、カロルが扉の鍵を開けて二人は中へと入っていった。
「凄いのか?」
カロルはファラッドに問いかけた。
カロルは何度かこの演習場へ来ている。
他の演習場と同じく、特別な感情も感想も抱かなかった。
「凄いな。
ここの噂は聞いていたが、想像とは全く違う」
ファラッドは思わず顔をしかめた。
そして目の前を通り過ぎて行ったものに軽く吐き気を覚えた。
「ここ、演習中に何人が倒れた?」
「演習は少し先だ。下見に来た連中が六人吐いて、三人が現在病院だ」
「だろうな」
ファラッドの閉じた目には、廊下で自分の首を抱えた少女が映っていた。
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カロルが嫌がっていたのは演習目的で演習場に来たのに、目的を達成する前に倒れられることだった。
しかも、それがカロルにとっては受け入れたくないが受け入れなくてはいけない非現実的存在となれば尚更だった。
認めたくはないが、カロルの職場には非現実的存在を処理するための専門家もいる。
その専門家自体が非現実的だとカロルは思っていた。
それでも頼らなければならない時もあった。
しかし、今はその時ではない。
「内部の連中に知られる訳にはいかんのだ」
信じたくはないが、内通者がいる可能性がある。カロルは嫌そうに言った。
だったら、部外者のファラッドには更に知られたくないのではないだろうか、ファラッドは今夜の事を忘れる酒の準備をしていた。
「俺の、上司は……早急にこの演習場の利用を求めている。
今回の事態を早急に片付けるよう、下請けにオロセと」
その下請けは、もしかして口が堅くて、冷静に、早急に、周知されることなく、少人数で仕事を完璧にこなしてしまう、俺が所属する事務所じゃあるまいな?
冷静に、早急に、周知されることなく仕事を完璧にこなしてしまう所長のおかげで、下請けのくせに睨まれている。
そして、一番の問題はカロルが下請け事務所の所長が苦手だということだ。
カロルの性格からして所長に仕事の依頼など、ファラッドに土下座をしてでもしたくないはずだ。
「あぁ、俺の友人からってことで言っておく」
「頼んだぞ」
お互いに、多少なりとも無駄だとは感じながら答えた。
***
「どこぞの幼女趣味の童話作家と一夜を過ごした気分はどうだ? ファラッド」
新聞から顔を覗かせて、下請け事務所の所長はファラッドを迎えた。
早朝の事務所には、味の違いも分からない珈琲の匂いが漂っていた。
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