「それじゃ、また明日」 「あい!」 「じゃあな」 ハッピーとグレイと別れて家路を辿る。 久々にいっぱい笑ったからなのか、なんだかすごく気分がよくて。 軽く鼻唄を歌いながら、明日から楽しみだな、なんて頬を緩ませた時だった。 「ルーシィ」 「!っ、…ってグレイ?」 ぽん、と肩に乗った重みに振り替えれば、そこには先ほど別れたはずのグレイがいた。 何か言い忘れたことでもあったのだろうか、と首を傾ければ、どことなく緊張してるような面持ちで、グレイがゆっくり口を開く。 「あー…いや、その、何だ。今日、家行ってもいいか?」 「え?」 「仕事の話とかしてぇし。それに…個人的に話もあるし、な」 「何か相談ごと?別にあたしは構わないけど」 「…そうか。じゃ、夜行くわ」 「夜?今からじゃないの?」 「いや…オレにも心の準備ってもんがな…」 心の準備? 口に手を当ててモゴモゴと喋るグレイに首を傾げると、少し慌てたようなグレイが、とにかく!と続けた。 「…夜行く」 「う、うん…分かった」 「そんじゃな!」 話はこれで終わりだと言うように、片手をあげて背を向けたグレイに、わけがわからないままあたしも手を上げる。 そのまま去っていくグレイの背中を見送りながら、一体どうしたのよ、と考えて。 まあ夜になればわかるか、と思い直して、あたしも我が家へと足を向けた。 グレイが来るなら、久々にコーヒーでも出そうかしら。 たまには豆から挽いてみるのもいいかもしれない。 そう頭に思い浮かべながら、階段を上がった、その時。 「よ、ルーシィ」 目に入ったのは、部屋の前で壁にもたれ掛かりながら手を上げる…桜色の少年の姿だった。 「ナ…ツ…?」 「何だよ、んな驚いた顔して」 すっげえ、変な顔。 そう指差して笑うナツに、頭がついていかなくて。 どうして、だとか何でいるの、だとか。 そんな台詞が次々と浮かんでは消えていく。 「何で…こんなとこにいるの…?」 「ん?あー、たまには不法侵入とか言われずに入ってみたかったからな。正攻法でルーシィを待ってみた」 「違うわよ!だってあんたは…っ」 もうここに用はないはずでしょう? その言葉は必死に飲み込んで、代わりに当たり障りのない言葉を必死に吐き出した。 「あんたは…いつから待ってたの」 「あー…15分?や、20分だったか?そんくらい」 「え…」 嘘でしょう?だって、あんた待つの大嫌いじゃない。 それなのに、こんな暑い中待ってたの? あたしを、20分も前から? 「何で…ってか家の中入ってればよかったじゃない」 「なんか待ちたかったんだよ、悪いか?」 「悪いかって…」 ああ、頭の中がぐちゃぐちゃと混ざりあう。 どうしてそんな笑顔で、ずっと来なかったくせに、何で。 「なんだよルーシィ、入らねぇのか?」 「…入る、わよ」 だめ。動揺なんかしちゃだめ。 震える手のひらをぐっと握り締めて笑顔を張り付ける。 「でも今日はもう遅いし…あんたは帰りなさい」 「は?」 「ハッピーも心配してるだろうし…てか最近あんたハッピーのこと放っておきすぎよ。あんたの相棒なんじゃないの?」 「え?あ、あー…なんか最近付き合い悪ぃんだよ。仕事に誘っても、来ねぇし」 「そうなの?珍しいわね、あのナツ大好きなハッピーが」 …よかった。 ナツにばれないようこっそり、安息をつく。 貼り付けた笑顔はその役目をは果たしてくれたようだった。 「そうなんだよなー。今日だって仕事に誘ったのに、オイラ別の用事があります、だってよ」 「…そう。それじゃ早く帰ってハッピーのご機嫌取らなくちゃ!もっと付き合い悪くなっちゃうわよ?」 そう言いながら、部屋に入ろうとしているナツを引き留める。 早くひとりになりたくて、悪いとは思いながらもハッピーをダシにナツを帰らせようと必死になるあたし。 渋るナツに笑顔で背中を押してやれば、仕方ねぇな、とナツは出口へと向かう。 そのことに安心して、せめて見送るくらいはしようとナツの後を追った。 そんなあたしに、ナツは背中を向けたまま彼にしては珍しく小さな声で呟く。 「……付き合い悪いのはお前もだけどな」 「え…」 「ま、オレがいたら邪魔になるだろうし、邪魔者はとっとと退散しますかー」 「ちょ…待ってよ、一体何の話…」 「なあ、ルーシィ」 前を向いていたナツが、振り返る。 振り向いた先の表情に、どくん、と心臓が嫌な音をたてた。 「せーぜーこの後楽しめよ?"グレイ"と」 眉間を寄せて、何かを咎めるように、半目で。 …ナツが、睨む。 「どうぞ、ごゆっくり」 扉の閉まる音が痛いほど耳に響く。 最後に見えたのは、口許だけに浮かべた冷たい笑みと…突き刺さるように真っ直ぐな、けれど…感情の見えない瞳だった。 ―――――――――――――――― グレイは良くて、オレはダメなのかよ。 グレイとのシーンを目撃してたナツ。 やっと2人絡んだのにもうぐっちゃぐちゃ。 もっとこれからこんがらがっていく予定。 とりあえず、今のところナツさん酷いな。 続きます → ← → |