「仕事…あたしも行かなきゃ…」





そうだ、その為にギルドに来たのだというのに。
でなければ、わざわざ傷を抉りにギルドへ来るはずもない。


早く仕事を探して帰ろう。
またいくつか掛け持ちでもすれば、当分ギルドに来なくても良さそうだし。


視線を、リクエストボードに移す。
その近くで笑っている2人を極力見ないようにして、あたしは考えに耽った。





良い仕事がありますように。
出来れば、ナツたちとばったり会わないようなとこがいい。

久しぶりに遠出でもしてみようかしら。
最近は近場での仕事しかしてなかったし、たまには移動に何日も掛かるような場所に行くのも良いかもしれない。



確か古本の仕分けを手伝って欲しいって依頼が何件かあったっけ…?

ひとつだけじゃ到底家賃代にもならないから、掛け持ちしなくちゃだけど。


他に何かないか見てこようかな。
今なら…気づかれないだろうし。


…気づいたところで声をかけてくれるかさえ怪しいもんだけど、ね。





「…リクエストボード見に行くの?ルーシィ」

「うん。ハッピーは…ナツたちと仕事に行くの?」

「ううん……オイラ、ルーシィの側にいます」

「…ありがとう」





それじゃあ、あたしと一緒に仕事する?
そう笑って言うと、ハッピーは頷いてくれた。


2人でリクエストボードを見に行く。
大きな仕事はできないから、簡単で、そこそこの報酬のものを選抜する。

ナツがリサーナと仕事に行くようになってから、あたしは一人で仕事に行くことが多くなった。


だから、最近は討伐系の危険な仕事はしばらく行ってない。




最初の頃はエルザやグレイも着いてきてくれてたのだけれど…調子の上がらないあたしを庇いながらではいつか怪我をさせてしまいそうで今は断わっている。



かといって一人では討伐系の仕事を受けるのは難しい。
それで、一人でも出来る仕事を選んでいるのだけれど、やっぱり討伐系の危険な仕事に比べて報酬も安いから、数をこなさなくちゃいけなくて。



リクエストボードの前で頭を悩ませるあたしとハッピー。
二人して唸っていると、リクエストボードに影が写り込んで。




「…っ」




思わずびくりと肩が揺れた。
あたしの背丈よりも少し大きなその影に、心臓がドクドクと警鐘を鳴らす。
怖くて、後ろが振り向けない。



どうか、違いますように…!




けれど、その影はどんどん距離を縮めてきて。
不意に、ハッピーの息を飲む音が聞こえた。





「よお、仕事探してんのか?」




ルーシィ、と。
耳許で呼ばれた瞬間、身体中から力が抜けた。







「…グレ、イ」

「よっ、驚いたか?」

「驚くにきまってんでしょ…?!」

「やったな、ハッピー。大成功だ」

「あい!」



振り返った先にいたのは、グレイだった。
それだけで安心感に足許が震える。

そんなあたしを軽く支えながら、ハッピーとハイタッチを交わすグレイ。

どうやら先に振り向いたハッピーにアイコンタクトを取っていたようで、それで悪戯好きのハッピーが乗ったということらしかった。



「止めてよね…あたしはてっきり…あ」

「…ナツかと思った?」

「いや、違くて…っ」

「確かにあの状況じゃ、アイツだと思うわな。悪い、ルーシィ」




ぱんっと両手を合わせて頭を下げるグレイ。
その様子に、少しだけ苦しくなりながらも首を振った。




「ううん、あたしも悪かったし…だから顔上げて」

「ん…さんきゅ」



…グレイは全てを知っている。

あたしとナツが付き合っていることも。
ナツが今リサーナにべったりだってことも。
あたしとナツがもう仕事に一緒にいってないってことも。


全て、知っているから、だからあんな風に謝られるとどうしていいか分からなくなる。


打ち明けたのはあたしだけれど、なんとなくハッピーと同じで。まだ何も言ってないのか、と言われているような気分になるから。

だから、謝られるのは少し辛い。



「あー…あんま気にすんなよ?謝るの苦手だってわかってっから。今のはあれだ、驚かせたことに対してだからな?」

「グレイ…」

「だから、んな顔すんな。笑ってる方がお姫様らしいぜ、な?」

「…うん」

「…よし。ところで、お前ら仕事行くのか?」




ぐっとグレイの大きな手のひらがあたしの頬を包んで、あたしの頬を親指で撫でた。

まるで涙を拭くようなその仕草に、やっぱりグレイにも我慢してたの気づかれてたのか、と少し恥ずかしくなる。

そんなあたしにグレイは笑って頭に手のひらを乗せながら、俺も行ってもいいか、と聞いた。




「グレイも?」

「ああ、俺がいれば簡単な討伐くらい行けるしな。その方が家賃代にも良いだろ」

「え…でも」

「大丈夫だよ、ルーシィひとりくらい俺が守ってやっから」



だから、な?と乗せた手を左右に動かしながら優しくグレイが問いかけて。
されるがままのあたしのおでこに、自分のおでこを重ね合わせた。




「それに」

「っ…!?」

「最近お前仕事しすぎ。たまには身体休めねぇとキツいぞ?」




だから今回はバーっと稼いでしっかり休め。
そう、至近距離でにやりと笑うグレイに、身体中の体温が一気に頬に集まった。




「…でぇきてぇる゛」

「で、できてないっ!」




ハッピーの巻き舌風な言葉に、慌ててグレイと距離を取る。
残念、だなんて冗談をはくグレイを赤いままの顔で睨み付けて、仕事の話を進めた。


だけど、重かった心は2人のおかげで少しだけ軽くなった気がする。
からかいながらもあたしのことを気にしてくれる2人にボソッとありがとう、と呟くと。




「ま、お前が元気ないとつまんねぇしな」

「あい!」



そういって笑う2人に、あたしはもう一度心の中でありがとう、と呟いて。
久しぶりに感じるほど思いっきり笑うことができたのだった。






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グレイさんは相変わらず天然タラシです。



ナツルーだと表記してるわりにナツルー感ゼロでごめんなさい!
続きます。









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