頭が真っ白になる。 ただただ目の前の光景から目が離せない。 どうして、だとか。何で、だとか。 もうそんなことすら考えることすらも出来なくて。 …考えたくも、なくて。 「ナ、ツ…」 「ん…」 「っ…」 ただ…ひとつだけわかるのは。 今ナツに愛されてるのはもう"あたし"じゃないってことだけだった。 「…やっぱり、ね…」 ナツが好きなのは、リサーナだった。 あたしは彼女が戻ってくるまでのの身代わりだった。 そんなの…もう分かってたことじゃない。 生温い何かが頬を伝う。 それが何かなんて確認するのも嫌で、あたしは滲む視界を強引に拭った。 ふたりに背を向けて一歩を踏み出す。 なるべく足音を出さないように、と考えて。 「…馬鹿みたい、あたし」 聞こえたところで、別にもう何にも支障はないっていうのに。 だってナツとあたしはもう付き合ってないのだから。 「…自然消滅だって立派な別れ方よね」 そう口をついて出た言葉に自嘲的な笑みが溢れる。 ぐちゃぐちゃな感情を洗い流すように、空から落ちる雫が、あたしの身体を濡らしていった。 ぽつり、ぽつり。 染み込むように濡れる身体がだんだん冷えていく。 冷たいな…傘持ってくればよかったかな。 水分を吸い込んだ衣服が重みを増して身体に張り付く。 その感触に、なんだかふと懐かしさを感じた。 そういえば…前もこんなことあったっけ。 そう…確か、ナツと付き合う前だ。 ナツのこと、まだ気になってる段階で、そんな時二人で仕事に行くことになって、それで… ーーーーーー… 「うわぁ…びっしょびしょ…」 「冷てー!」 「ちょっと!こっちに水飛ばさないでよ!」 犬のように頭を振って水分を飛ばしてくるナツに文句を言って、飛ばさなくてもあんたは魔法で乾かせるでしょ!と言うとハッとした顔をするナツにため息を吐いた。 「ほら、早く火出してよ。私も乾かしたいんだから」 「お前人使い荒いぞ……ん。」 「ありがとう…はぁ、それにしてもこれじゃ当分動けないわね」 ザーザー降りな空模様を眺めながら二人して唸る。 今日の依頼は、幻のキノコを探してほしいという単純な依頼だった。 独特な香りがするとのことだったので、ナツがいれば楽勝だと思ったのだけれど。 …さすがに天気までは読めなかったな。 雨が降る、なんて聞いてなかったけど、山の天気は変わりやすいっていうし。 さすがに雨だと匂いも消されるみたいで、ナツも鼻を動かしては首を捻る動作を繰り返してる。 傘なんて持ってきてなかったから、急に降りだした雨にやられて二人ともびしょびしょだし。 たまたま岩穴があったから良かったものの、完全に足止めを食らっちゃって打つ手なしだ。 それに。 「…っくしっ」 ナツの魔法で服は乾いたものの、芯まで冷えた身体は火にあたっただけではなかなか暖まらない。 身体を包むような毛布か何かあればまだ違うんだけど、ここは山小屋ではなく岩穴なので、そんなものあるわけもなく。 「寒い…」 「もっと火強くするか?」 「あっつ!ちょ、焦げる焦げる焦げるー!!」 「お?寒くねぇならこのまま…」 「違うから!暖まるのと焼けるのは違うから!!火弱めて!!!」 「んだよ…文句多いぞルーシィ」 ぶーぶー言いながらも火力を弱めてくれたナツにほっとしながら、ナツに背を向ける。 表は暖まったけど背中は冷たいままで。 でも暖まるころには表が冷えるんだろうな。 「はぁ…毛布欲しい」 「毛布?」 「だってどっちか暖まったらどっちかが冷えるだもん…」 「ほー」 ← → |