見られた。 ナツに、グレイとの約束を。 「っ…ど、しよ…!」 別に悪いことはしていないし、グレイがくることだって今までだってあったのに。 それでも、こんなに心がざわめくのは、最後にナツが見せた表情のせいだろうか。 冷たくて、怖い。ナツらしくない表情。 怒り?呆れ?…全部に当てはまりそうで当てはまらない。 何かが変わってしまったような、そんな気がする。 ナツとの間にあったものががらがらと音を立てて崩れさっていく、そんな気が。 「や、だっ…!」 無意識だった。 足がナツを追いかけて地面を蹴る。 焦る気持ちが手に表れるように、ドアノブを掴む手が滑る。 早く。早く。早く! 今放って置いたら、二度と戻れない気がする。 嫌な予感に胸がざわざわと撫でられて気持ちが悪い。 けれど、やっと開いた扉の先にはもうナツはいなくて。 「っ…!」 襲った絶望感に、足がすくみそうになる。 でも、なんとか自分を震い立たせて一歩を踏み出せば、また足はナツを探して走り出してくれた。 「ナツ…!」 ごめんなさい。 ナツを拒絶して、遠ざけてしまって。 居場所を失うのが怖くて、臆病なあたしはナツを避けることしかできなかった。 リサーナに笑いかけるナツが悔しくて。 恋人なのに、なんで一緒にいてくれないのって勝手に嫉妬して。 だったら離れればいいんだって、そうすればこの痛みも消えるんだって思い込んだ、馬鹿なあたし。 自分から遠ざけたのに、今更何様なんだって怒られるかもしれない。 もうルーシィなんて嫌いだって、そう言われちゃうかもしれない。 でも、もし、まだ間に合うのなら。 「もう、絶対にっ…逃げない、から…!」 だからお願い。 あたしに、もう一度チャンスをください。 「っは…いた…!」 散々走り回って、足が縺れそうになりながら、やっと見つけたナツの姿。 ナツの家で、玄関先に座り込むナツに、罪悪感が浮かぶ。 許してもらえないかもしれない。 帰れって言われたらどうしよう。 無我夢中で探してる時は、思わなかったのに、実際にナツを前にすると、足がすくむ。 怖くて、もう、泣きそう。 上手く言葉がでるかわかんない。 「でも…行かなきゃ」 これは全て、あたしの責任だ。 ナツを拒絶し続けた、あたしへの罰。 ゆっくりと、深呼吸を繰り返す。 何度目かでようやく落ち着いた気持ちと心。 最後に頬をぱちんっと叩いて気合いを入れる。 下を向いていた視線をナツへと戻して、ゆっくりと、しっかり一歩ずつ足を進めた。 「ナ…」 …けれど。 そんな気合いも覚悟も、次の瞬間一気に崩れ去っていった。 「…ぇ…」 ナツの影、見えなかったその先に揺れた銀髪。 重なるように、向かい合った2人の唇はお互いの間を埋めるように、しっかりと重なっていて。 「…っ……!」 淡い期待は、弾けるように目の前で消える。 …ああ、あたしはなんて甘かったのだろう。 どうやっても取り戻せないものがあると、あたしはこの時初めて知った。 ――――――――――――――――― あの時拒絶しなければ、何かが変わっていたのかな。 手遅れルーシィ。 ナツside挟まなかったら、ナツ最低ですね。 お互いに臆病になるといいことがないのです。 ← → |