わたしは異常ですか。




わたしは異常ですか。

冬の暖かい日、あるひとりの男が話しかけてきた。
男は黒いスーツに身を包み、髪は後ろに向かって撫でつけている。顔の造形は可もなく不可もなくといった印象だ。
私が不審そうな目線を向けると、男ははっとしたように口を開く。

ああ、申し訳ありません。見ず知らずの人間からこんなことを問われたらそれは不可解に思うでしょう。そうでしょうね、ええ。しかし、私は別にあなたに危害を加えようなどと思っていません。ええ、思っていませんとも。わたしはただ、あなたから見てわたしが異常であるかどうかをききたいだけなのです。異常に思えたら、遠慮なく異常だと言っていただいて構いません。ええもうはっきりと、お前は異常だと。あなたにはこの問い意外には他に干渉する気はありませんから安心してください、はい。ええですから、あなたの主観で構いませんが、わたしは異常ですか。

男はそれだけ一息に言うとまた口を閉じた。
私はこの男が異常だろうがそうでなかろうが知ったことではない。こんな昼間から絡まれて、それは迷惑であるが、これからもこのあとも、きっとこの男には関係なくすごしこんな出来事もすぐに忘れることだろう。
しかしこのよい日差しのさなか浮かれた気分を邪魔されたのはひどく不愉快であったから、この男に少しだけいじわるをしたくなった。
だから、こう言った。



ええ、あなたは異常でございますわ。



それをきいた男はなぜか満足そうに笑って。
すぅと、薄くなって消えた。




end



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