虚構と口付け



「お前さ、驚くほどコーヒー淹れるのが下手だな」

ボールスが言うと、ゴードンはムスッとした顔で目線を明後日へ向けた。

「うるさい。だったら自分でやれよ」

ロイヤルパラディン城の談話室。隅のソファに腰掛けて、ボールスは今しがた「不味い」と言ったコーヒーをすする。向かいのソファに座るゴードンは、盆を抱えたまま不機嫌そうに目線を泳がせている。
それは、何故かロイヤルパラディン城でよく見る光景だった。ボールスは毎度「不味い」と言うにも関わらず、ゴードンにコーヒーを強請るのだ。

「つうか、なんでいつも俺なんだよ……」
「ん?何か言ったか」

ゴードンの呟きを、ボールスは耳ざとく聞きつける。ボールスの余裕そうな笑い方が、ゴードンは嫌いだ。全てを見透かされているようで。

「そんな毎度毎度不味いっていうくらいなら、俺に淹れさせんなよ。もっと美味くできるやつなんているだろ、モルガーナの姐さんとか」
「そうだな」
「っ!だったら、」
「でも私は、これがいい」

ボールスはコトリとカップを置いた。そして、まっすぐにゴードンを見つめる。

「これを飲む度に、安心する。お前らしくて」
「っ……」
「これからも私に、淹れてくれないか。お前の不味いコーヒー」

にこやかにボールスが言う。ゴードンは俯いて意味のない呻きを漏らした。少し耳が赤い。

「ゴードン」
「……」
「返事くらいしたらどうだい」
「……」
「…カップ、下げてもらえるかな」

諦めたようにボールスが言うと、ゴードンは乱暴に立ち上がってボールスのカップをひったくり、談話室を出ていこうとした。
ボールスも立ち上がり、ゴードンの肩に手をかけると、

ゴードンの耳にキスをした。

軽いリップ音を鳴らしたそれに、振り返ったゴードンは信じられないという目でボールスを見つめる。
ボールスは先ほどのにこやかな笑顔を向けている。

「また私に、コーヒーを淹れてくれるかい?」







「あの、ボールスさん。失礼を承知で言わせてもらいます。よそでやれ」
「そうだねえ、沈黙クン。まさかカップの中身をひっかけて逃げるとは思わなかったからなあ。こんどはちゃんと中身を飲んでしまうことにするよ」
「おいちゃんと話をきけ。ここ一応談話室だぞ」

さて、とボールスはコーヒーがしたたる髪をかきあげた。

「あの程度で済むと、思っているのかな、アイツは」

先ほどとは打って変わった怪しい笑みをこぼしながら、ボールスは人知れず呟いた。





虚構と口付け


耳の上へは、誘惑のキス



end


人前でイチャイチャしたがるホモォ(一名のみ)
あ、ボールス(バイ)→ゴードン(ノンケ)です

最後のほうは無理やり終わらせたから少し幼稚な文章になってしまったのが悔やまれます。

とりあえずゴードン逃げろ



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