ああ、ルクスとノクスの果てへ



カロンはシャドウパラディン内でも特にブラスター・ダークを敬愛している。ブラスター・ダークがまとう雰囲気や彼の信念、果てにはその嗜好までもカロンには神聖なもののように感じられる。ダークの好物がハンバーグと知ったときから、手作りハンバーグの研究に余念がないほどである。
要するに、カロンはブラスター・ダーク馬鹿なのだ。

だから今のこの状況が信じられないでいる。と言うかこの状況にふてくされている。ああどうしてこうなった。

「ねー、カロン。いい加減そんな恨みがましい目でこっち見ないでよ」
「うるさい、黙れ……栗め!」
「あ、それトラウマなんだから止めてよ!」

隣に腰掛けている小さな賢者(ガタイはでかい)は眉を寄せて抗議の声を上げた。




ああ、ルクスとノクスの果てへ





現在、カロンが愛して止まない彼の人は、ロイヤルパラディンのブラスター・ブレードと剣を合わせている。ただし、木刀を使い防具も身につけていない。ただの手合わせである。
しかしどちらも剣の達人であり、技量は拮抗しているため、ともすれば舞踏を舞っているかのようにみえた。もうカロンの目はブラスター・ダークに釘付けである。え、もう一人のほう?眼中にない。

ロイヤルパラディンの城の地下にある広い闘技場。その中心で激しく舞う二人のヒューマンを眺めながら、マロンは隣のジャイアントの少年に話しかける。

「ねえ、カロン。ちょっといい?」
「だめ。今いいとこ。黙ってろ。…ああっ、ダーク様ぁ!」
「うん、分かってた。これ一応ギャグだもんね。そんな反応だよね。でも話が進まないから聞いてもらっていい?」

カロンはしぶしぶと乗り出していた身を引いてマロンに顔を向ける。これ以上ないほどのジト目である。ダーク様鑑賞を遮られたことがそれほどまでに腹立たしいらしい。
カロンがこの夢を追う少年を嫌っていることも、理由のひとつかもしれないが。

「なにさ。早く話してよ。ほんとはダーク様の動き全て見ていたいんだから」
「うん、ごめん。……ねえ、カロンはさ、どうしてここまできたの?」
「……どういう意味で言ってるの?」
「んー、動機かなあ」
「……」

カロンは少しの間口をつぐんで、そして、ブラスター・ダークの方に顔を向ける。

「……別に、ダーク様に付いてきただけ。ロイヤルパラディンに行くって言われたときは驚いたけど、ダーク様なりの考えがあるのかなって。それで、無理言って連れてきてもらった」
「力になりたかったんだ?」
「僕がダーク様の力になりたいと思わない日はないよ」

カロンにとってのブラスター・ダークは、神聖で侵されざるべき存在だった。あの、全てを射抜くような冷たい瞳に憧れた。
それなのに。

「……どうしてアイツは、あんなに簡単に寄り添うんだ」

ブラスター・ブレードがダークに勝って、カロンには全てが一変したように思われた。
彼らがそろって食堂にあらわれたときは、シャドウパラディン中で大騒ぎしたものだ。だがそれ以外にもたまに一緒にいる姿をみかけるし、例の謎の勢力との戦闘なぞ、お互いの背中を守って戦っている。
ブラスター・ブレードとブラスター・ダークは、あれほど憎しみ合っていたはずなのに。


頼むから、侵さないで。
あの人のきれいな闇を。
僕が憧れた、穢れないあの人の心を。


「カロン。僕もね、ブラスター・ブレード様に付いてきたんだけどさ」

マロンも、いまだに決着が付かないヒューマンを眺めて、言う。

「あの人さ、昨日の夜からすごく嬉しそうだったんだ。顔には出さないんだけど、雰囲気が。ボールス様なんか、恋人に会うみたいだって、からかってた」
「だから、なに」
「あの人はきっと、ダーク様のこと、憎んでなんかないんだよ。ずっと前から」

マロンは少し前までのブラスター・ブレードを思い出していた。彼は笑いもしたし、人のユーモアに乗るくらいは冗談も言える人だった。
それでも、どこか悲しそうだった。
特に、シャドウパラディンとの戦闘の時は。

「ブラスター様がダーク様に自身の精一杯で臨んでいたのは、きっと、そうしないと伝わらないと思っていたんだよ。誠意とか気持ちとか」
「……でも、それでも、やっぱり光と闇は相容れないんだ。混ざり合うことなんて……」
「本当に、そうかな」

マロンの言葉に、カロンは振り向く。
マロンは眩しそうにブラスター・ブレードとブラスター・ダークを見ている。

「光も闇も、多すぎれば何も見えないことは同じだよ。どちらもあるから、ちゃんと物事が見渡せる。マジェスティが、それを体現してる」
「そんな、曖昧な」
「曖昧なんだよ、この世なんて」

マロンが振り返って笑った。その笑顔に、カロンは言葉に詰まる。
そのとき、カーンと高い音がした。






ダークの木刀を跳ね上げ、それが手の届かない場所まで飛んだのを確認して、ブラスターは大きく踏み込んだ。今なら研究所での敗戦記録を塗り替えられる!

しかし、焦ったかに見えたダークの表情は、次の瞬間ニヤリと怪しく笑う。
そしてその前足が踏み込んだブラスターの足を器用にひっかけた。

「いまさら足!?」

驚くのも束の間、体勢を崩したブラスターに、ダークの容赦ない回し蹴りがあびせられる。ブラスターは軽くふっ飛び、尻餅をついたのだった。

「……ったぁ」
「俺の勝ちだな」
「き、汚い!どこでそんな手学んだんだ!お兄ちゃんは教えていません!」
「いきなり兄貴面するな。ウチにはマーハやらネヴァンやらあくどい手使う奴らばかりだからな。あんな中にいたら自然とこうなる」
「マクリールはすっごくいいこだったのに!」

シャドウパラディンの女性陣はなにやら怖そうである。

「そんな汚い手使うんならな、いっそむらくも隊に編入してしまえ」
「ああ、考えておこう」
「っ……!」
「……お前、自分から言い出しといて、そんな雨に打たれた子犬みたいな顔するなよ……」

呆れながら、ダークはブラスターに手を差し出す。ブラスターはその手を取って立ち上がった。

「珍しいな、お前から」
「別に、大したことじゃないだろ。…………兄弟、なんだし」
「……ああ、そうだな」

ブラスターが笑うと、ダークは照れくさそうにそっぽを向いた。

ふと二人が振り向けば、タオルを持ったカロンがこっちに駆けてきていた。一生懸命な姿が微笑ましい。その少し後ろからマロンが追いかけている。

「なあ、ダーク」
「ん?」
「きっと、みんながいれば、この世界を守れるよ。絶対に」
「……そうだな」

絶望を希望に変えて。
歩き始めた道はまだ交差したばかり。
それでも、お互いがなければ存在しない光と闇のように、それぞれに寄り添っていくのだろう。


いつかまみえる、光と闇の果てへ。




end

締め方が分からないので、よくわからない文を書いてしまいました。

それにしてもブラダクの愛され率が高すぎる。
ちなみに、少なくともあとジャベリンさんがいます。彼は軽いヤンデレ


題名ですが、ラテン語の光(LUX:ルークス)と闇(NOX:ノックス)をもじりました。
でもNOXって夜の意味が強いんだろうけど、語感的にこちらをチョイスしました。韻も踏んだし。

なんか、ブラブレとブラダクの人名ってこれでよくね?って思った。



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