食堂までの数分間



一度、弟を連れて研究所を抜け出そうと思ったことがある。
高い塀を乗り越え、見たこともない広い草原に出たとき、ああ外に出れたんだと、思わず涙が流れた。
けれど、そこも研究所の一部でしかなくて。
その一時間後、僕達は本当に外に出ることもなく、あっさり捕まえられてしまったのだった。





それから、六年が経って。





「おはよう、ダーク。朝ご飯はまだだろう?食べに行こう」
「いや、あの、ツッコミたいところはたくさんあるんだが、なんで当たり前のようにここにいる?」

シャドウパラディンの居城、ブラスター・ダークの部屋の前で、出てきたダークに朝の挨拶をした。本当は部屋の中に入って眠っているダークを起こしたかったけれど、あんまり長く離れていたこともあって、さすがにそれは出来なかった。前の晩にダークに許可を取っていればよかったと後悔している。

「だって、ほら、共同戦線張る条約交わしたとき、お互いの城に自由に入れる約定があっただろう」
「昨日の今日だろうが」
「四日前の話だよ」

そんなことどうでもいいから、と、ダークの手を引いた。少し困惑したようにダークは引かれた手を見つめる。

「……なんだよ」
「ご飯、食べにいこう。ずっとダークのこと待ってたからお腹空いてるんだ」
「お前はストーカーか。ひとりでいけ、そんなもん」
「せっかく待ってたんだ。な、一緒に食べよう?それに私、この城の食堂の場所、分からないし」
「俺の部屋を知っていた野郎が何を言う」

ダークはそう言うけれど、手を引いて歩いたら、文句を言いつつ付いてきてくれた。それが嬉しくてつい微笑んでしまう。ダークの方を見たら、仏頂面のままだったけれど。

「何、笑ってるんだよ」
「だって、ダークとこうするの、久しぶりだろう?嬉しいんだ」
「一度も手なんか繋いだことはないぞ」
「あるよ、一度だけ」

言っても、ダークは分からないと言いたげにこっちを見ている。
忘れてしまったのだとしたら、少し悲しい。

「ほら、研究所を抜け出そうとしたとき。私が手を引いたじゃないか」
「……」
「あれほど頑張ったことはないのになあ。忘れてしまったのか」

残念そうに言えば、ダークは少しだけ困ったような顔をする。

「……済まない」

そっぽを向いて、小さくそんな事を言うダークが少しおかしくて、ふふ、と笑った。
ああ、やっぱり、ダークは優しい。

「大丈夫だよ。気を遣わせてごめんな」
「……」
「なあ、ダーク」
「……なんだ」
「今度は離さないからな」

あの日、離してしまった手。本当は、繋いだまま、一緒に広い世界を見たかった。笑ったり、泣いたり、研究所の中では出来ないたくさんのことを、一緒に経験したかった。

あの日にできなかったことだけど、多分、今なら、できる気がする。

ダークの手を、強く握り直した。

「だから、ダーク。受け入れろ、と言うのは無理でも、せめてそばにいることくらい、許してはくれないか」
「……俺が迷惑することは、考えないのか」
「そこは、私のささやかなわがままだ」

私がそう言うと、ダークは少しだけ笑った。その笑顔が嬉しくて、私もまた笑い返した。

こうやって、少しずつ、二人で思い出を作っていこう。
離れていた分も埋められるくらいに。


まずは食堂までの数分間。
それが、私たちの絆になるんだ。



end


弟にデッレデレな兄ちゃんがすごく愛しい。

ブラブレはこの日非番で、ちょうどいいからブラダクに会いに行こうと思い立ち(午前六時)、朝からシャドパラのとこに行ったはいいものの、いつまでもブラダクが部屋から出てこず(午前七時)、なかなかに低血圧なブラダクはだいたい本調子になるのが午前九時くらいで、朝の支度を済ませて飯でも食べようと外に出たらなぜかブラブレがいた(午前十時)というシチュエーションだったらいい

↑長いから読まなくてもいいよ!



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