愛されているような気がした



 密かに願うのはただこの熱を共有するもう一つの熱だけで。
 弾けてしまいそうな疼きも、引き裂かれてしまいそうな悲しみも、それさえあれば耐えることができそうな気がした。





「……テツ」

そう呼べば、例えどんな状況であろうともこの幼なじみは傍にいてくれる。僕が何も言わなければ、何も訊かずに寄り添ってくれる。
今までどんなわがままを言ったか分からない。小さいことも、大きいことも、彼は彼のできる限りを持って叶えてくれた。
でも、こうやって名を呼び傍に置いておくことが、どれだけわがままで贅沢なことか、分からないわけじゃない。


櫂が去った直後。雪の降る中でただ悔しさに立ち尽くしている僕を、テツはそっと包み込むように抱きしめてくれた。
その行為は小さいころ、何度もしてくれたものだ。僕がささいなことで泣いてしまったとき、言葉のかけ方が分からなかったテツは、そっと慰めるように抱きしめてくれたものだった。そのぬくもりが気持ちよくて、下手な言葉をかけられるよりずっと早く泣き止んだ。
だけど、そのときの僕は櫂を失ったばかりで、不安だけが心を支配していた。
もし、このぬくもりまでも失ってしまうとしたら。
それを思うと苦しくて、悲しくて、震える声でテツに言った。

『テツは、テツはずっと、僕のそばにいてくれるよね……?』

そのときの僕は、ひどくずるいことを考えていた。テツのことだから、こんな風に言えば、きっともう傍から離れないと知っていた。
案の定、テツは目を伏せたかと思うと、たった一言、言った。

『ああ』

ああ。
僕たちの間に、この瞬間、掛け金が下ろされたのだ。
僕はテツから、自由を奪った。


その後、テツは荒削りだった自身のデッキを見直し、闘いを重ね、驚くほど早くフーファイターのトップに立った。「傍にいて」という僕のわがままを、テツは己の全てを持って叶えようとしていた。

分かっていた。
それがテツにどれほどの制限を与えるか。
けれど、どうしてもあのわがままを撤回することができなかった。
失うかも知れないと思えば思うほど、あのときのわがままにすがりついている。
それさえあれば、少なくともひとつのぬくもりを、失わずにすむのだから。


何年越しかの櫂とのファイト。
勝ってしまった瞬間、完全に櫂を失ったのだと悟った。
もう僕は、櫂の元に戻れなくなってしまった。あるいは負けていたなら、何か違ったかもしれない。もう無理なことだけど。
櫂を残して部屋を去ると、もう振り向くことはしなかった。部屋に戻って窓の外を漠然と眺めていると、アサカが部屋へと入ってきた。

「レン様、先ほどの闘い、見事でした」
「……そう」
「きっと、明日の決勝もなんてことはないでしょうね。そもそも櫂トシキがあの程度なら、レン様に回ってくることも」
「アサカ」

名を呼んで黙らせる。そんなことどうでもいい。重要なのはそこじゃない。もう何も、聞きたくない。

「そろそろ帰ったら?夜も、もう遅いでしょ」
「いえ、私は」
「いいから帰れ」

びくりとアサカが怯えたのが分かった。そんなに怖い言い方をしたつもりはなかったけれど、でも、いなくなってくれるならどうでもいいことか。
アサカはひとつ礼をすると、部屋から出て行った。泣いていたかもしれない。興味はなかった。
また一人になって外を眺めた。こうしていると、あのときを思い出す。たったひとりで、雪の中に立ち尽くしていた。
ふと気付けば、そばにテツがいた。

「テツ」
「はい、レン様」
「もし、今ひとりにしてって言ったら、出ていってくれる?」
「出て行きません」
「どうして?」
「あなたは今、ひとりになりたくないと思っている」

ああ。
テツ。どうして君はそんなに温かいんだろう。
どうして、そんなに優しいんだろう。
苦しくて、悲しくなるよ。

「テツ、分かってるんだろう。僕がテツにそばにいて欲しいって言ったの、櫂の代わりでしかないんだよ」
「はい」
「じゃあ、なんでそばにいるの。なんでそうやって全部棄てたの。周りに冷たく当たったりして、どうしたって、代わりでしかないのに!」

そう言った瞬間、テツが僕を抱きしめた。あのときのように、包み込むような抱擁だった。

「テツ……?」
「レン、俺は、お前に何も望んじゃいない」

あのときのようなしゃべり方で、テツは囁くように言う。
慰めるような、励ますような、久しいぬくもりは、どうしようもなく胸を締め付けて。
本当に何年かぶりに、僕はただ涙を流した。




end

ただただ優しいテッちゃんと甘えまくってるレン様。
たんに優しいテッちゃんが書きたかった。
CPのつもりはないけど、なんか怪しいので腐向けにしたわ。
最終回の前までには上げたかったからまあ満足。

やっぱり一晩で書き上げられる程度の長さじゃないと完結できねえ……!

タイトルをお借りしました!
確かに恋だった



back



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -