ヴェントゥスにデアの口付けを



※ドラゴン達は人型になれるという設定です。




「オーバーロード!」

ダンッ、と勢いよく戸が開かれ、ソウルセイバーがツカツカと部屋に入ってきた。美しい髪がざわざわと揺れている。よほど怒っているようだ。部屋の隅に待機していたボーテックスが身構えたほどである。
しかし部屋の主であるオーバーロードは驚いた様子もなく、突然の来客にも背を向けたままだった。ゆっくりと長い髪の先が揺れた。

「いくら聖竜と言えども、そのような来訪の仕方はどうかと思うぞ」
「黙りなさい、黙示録の。話は聞きました。どういうことか説明しなさい」

ソウルセイバーの言葉に、オーバーロードはクスリと笑って、静かに振り向いた。
オーバーロードは穏やかな顔をしていた。初めてみるその表情に、ソウルセイバーは息が詰まった。

「説明もなにも、分かるだろう?より強い力を得るため。それ以外に理由はない」
「だからと、だからと己が命を削る邪法など、どうして行う必要があるのですか!」

ソウルセイバーの叫びが部屋に響く。

ドラゴニック・オーバーロードが禁忌の術を行うらしい、そんな話を聞いたソウルセイバーは、いてもたってもいられず単身でドラゴンエンパイアへと乗り込んだ。
彼女自身も半信半疑ではあったが、嫌な予感が総身を支配していた。

オーバーロードのことは、彼がまだ人の手のひらに乗るような大きさのときから知っている。この子供に幸多からんことをと、聖竜として神に祈ったこともあった。例えオーバーロードが数百年生きたとしても、ソウルセイバーにとっては未だ幼子のように思えてしまうのだ。
そんなオーバーロードが、命をむざむざ落とそうとしている。そんなことが、あっていいはずがない。

しかしソウルセイバーがかげろうの本部に到着すれば、肌に痛い邪気が感じられた。そこにいた衛兵から話を聞き出すと、その足でオーバーロードの自室に向かったのだった。


「オーバーロード、あなたが戦竜として生きることも、それ故絶え間なく傷つくことをいとわないことも、私は理解しているつもりです。でも、こんなこと」
「俺が傷付き強くなることで、皆の志気が上がり、この国は強くなる。それと同じだ」
「同じではありません!」

ソウルセイバーが声を荒げる。腹が立っていた。この状況で未だ穏やかなオーバーロードに。
せめて、もっとあなたの感情を見せて。
でないと、あなたが遠くに行ってしまったようで。

「あなたの命が尽きれば、いったい誰がこの国を護るというのですか。誰がこの国を率いると」
「それは、誰でもできること」
「できません。できるわけが……」

肩を震わすソウルセイバーの声を聞きながら、オーバーロードはボーテックスに目配せした。ボーテックスは察したように部屋から出て行く。
ぱたりと扉が閉じられたのを確認すると、オーバーロードはそっとソウルセイバーのもとに寄って、その髪に触れた。

「俺は、幸せ者だな。聖竜にそのように心配されて」
「そう思うのなら、」
「だが、今更、止めることなどできない」

意志を宿した瞳に射抜かれて、もうソウルセイバーは何も言うことが出来なかった。
ああもう止められないのだと、ずっと分かっていた答えを、やっと受け入れた。

「……生きて、欲しかった」

そう言って、ソウルセイバーはうなだれた。
オーバーロードは、ふっ、と苦笑する。

「まだ、死ぬと決まったわけじゃない」
「いいえ、同じ。同じよ、そんなの……」

ソウルセイバーはふるふると首を横に振る。
聞き分けのない子供のようだと、自身でも思う。しかし、もう説得すらできないと受け入れた今、自分の言葉が整合性など求めるはずもない。なら口を開かなければよいのだが、それすらしないのは、口を閉じれば今にもオーバーロードが行ってしまいそうな気がしたから。

繋ぎ止めておきたいのだ。今のままのオーバーロードを。
ただのエゴでしかないのも、理解している。

力なくうつむくソウルセイバーの髪を数度撫でて、オーバーロードはそっと彼女を抱き寄せた。
自身を包み込むほどの体躯に、ソウルセイバーはこの竜がもう子供ではないのだと思い知らされる。

「……オーバーロード」
「戻ってくるさ」

低くかすれた声が囁く。顔は見えない。相手の息遣いと心臓の音を感じた。

「どれだけ命をすり減らそうと、必ず、生きて戻ってくる」

誓いのような言葉だった。その言葉には確証なんてない。ただ彼の決意だけがあった。
こんな口約束に意味はないだろう。それでも、縋ってしまいそうになる。

「必ず、ですよ」
「ああ」
「違えたりしたら、許しませんから」
「分かっている」

ずっと、彼が幸福であることを祈っていた。例え敵対している国家に身をおいていても、聖竜として、すべてのドラゴンを祝福していた。
けれど。


「……戻って、きて」


今、彼女は、一体のドラゴンとして、彼の無事を祈っていた。すべてを棄ててもいい、どうかこのぬくもりをなくさないでと、願っていた。

オーバーロードは、返事の代わりに彼女をさらに強く抱きしめた。
ソウルセイバーも、彼の背に腕を回した。



もうしばらくは、どうかこのままで。
ソウルセイバーは静かに思った。



end


オバロがジ・エンドになるようです。


ドラゴンの人型設定として、髪の毛が翼や尻尾を表しているというものがあります。
尻尾ゆらゆらしてたら髪の毛ゆらゆらしてるみたいな。

あと、イメージはおねショタ。の、成長後みたいな。
おねショタ成長は姉さん目線のが激しく萌える。


ちなみに、「ヴェントゥス」は風、「デア」は女神って意味のラテン語です。
竜のラテン語が「ドラコー」で、つい「マルフォイwwww」となったので使えませんでした。



back



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -