ある初夏の戯れ



「そろそろ、暑くなってきたな」

ガンスロッドは窓の外を眺めて呟いた。振り向くとアルフレッドは興味もないといったように手元の書類に目を通していた。

「……何も反応はないのかよ」
「強いて言うなら、シャツが汗でへばりつくのは嫌いだな」
「つっまんねーの」

アルフレッドは今年で二十七になる。年齢だけで見ればエルフである自分の方がはるかに高齢だが、見た目はアルフレッドが二、三上に見えることだろう。
そういうわけだからか、つい最近まで子供のようだと思っていたアルフレッドの方が老成している気がする。そういうものは年齢ではなく外見によるものだと、ガンスロッドは思う。

「まだ剣を教えてやってた頃はもっと面白いことを言っていたと思うけどな」
「昔の話だ」
「たった十五年かそこらだ」
「ヒューマンにとっては十分古い」

そう言いながらアルフレッドは煙草をくわえた。
いつの間に煙草なんぞ吸い始めたのか。気がつけばアルフレッドはヘビースモーカーと呼べるまでになっていた。

やはり、エルフとヒューマンの時間差は越えがたいものがある。
自分が数歩進むうちに相手は何十、何百も歩みを進めている。そもそも体内の時間が違うのだ。エルフにヒューマンの時間はあまりに短すぎる。

「お前は」

ふと、アルフレッドが口を開いた。

「お前は、夏は好きか?」

ガンスロッドが伏せていた目を向けると、アルフレッドは先程と殆ど変わらない姿勢で、けれど、目線だけは机の隅に向けられていた。

「……俺に訊いてんの?」
「他に誰がいる」
「妖精でもいんのかなと」
「阿呆」

呆れたように、アルフレッドは書類を放ると、机の端に置かれていたアイスティを手に取る。氷が溶けていたようで、一口飲んで、小さく「不味…」と聞こえてきた。

「お前が文句言うの、珍しいな」
「……うるさい」
「俺はさ、嫌いじゃないよ」
「何が」
「夏」
「……そうか」

アルフレッドはもう一度そうかと呟いて、少しだけ笑った。

「じゃあ、俺も嫌いじゃない」




end


そうか、世間は夏休みか

と、気付いて去年の初夏に書いた話を掘り起こして投下



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